「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「結城友奈は勇者である 1期」─日常ならざる日常と勇者が頑張れる理由─ 感想と考察
日常を守るため戦う者、それが勇者
ある日突然、世界の守護者である神樹様を守るために大赦からバーテックスという敵と戦うお役目を与えられたのはいたいけな少女たちで、彼女たちは日常の世界を守るために身を投じる。
彼女たちのお役目である戦いは確かにシリアスな雰囲気を纏うものだが、その裏では和やかな女子中学生たちの日常が続いている…はずだった。
偽りの日常、日常の真実の姿
勇者として戦う彼女たちの力は神樹様に供物として捧げた身体機能の欠損と引き換えに手にしたものであった。さらに、この日常の中のほんの僅かな綻びのようにバーテックスの侵略があると思っていたこの世界の真実の姿はまるで逆で、バーテックスが覆い尽くす大海の中のほんの一滴のように神樹様に守られているこの日常の世界が存在していた。
この世界は際限のない程のバーテックスに囲まれているという真実を知ってしまえば、もう日常を今までと同じように過ごすことなんかできなくなってしまう。そして、それでも残された日常を守るために終わらない戦いを戦う程に身体の機能を、視覚、聴覚、そして記憶までも失われてしまう。
先代の勇者である乃木園子の身体はもう友達との日常を過ごすことができない程に機能を失っていた。そして、その友だちというのは、かつて鷲尾須美として勇者のお役目を果たした結果記憶を失った東郷美森であった。それは両親も知りながら彼女にはひた隠しにされていた事実だった。
今まで日常だと信じてきたものは何だったのか…。後にも先にも救いのない残酷な運命が待つだけの、今まで信じてきたカタチとは異なる新日常の中では、友だちだけが確かな日常のカタチをしていた。
勇者が頑張れる理由
この誰もが希望を失ってしまいそうな残酷すぎる絶望の中でも、結城友奈だけは希望を諦めていなかった。その勇者の背中がみんなを励まして、無限の力をくれる。
そして、勇者が諦めずに頑張れるのは大好きな友だちがいるから、親友のみんなを信じているから。頑張れる理由は友だちにあった。根本的な世界を変えることなんて到底不可能であり、本当の日常の世界は取り戻せなかった。だけど例え偽りでも日常の世界は守り切れた。そして、供物として失われた身体機能も回復して、友だちといる日常を取り戻すことができた。
そんな勇者の頑張る姿は希望を途切れさせずにみんなを励まして、そしてみんなの頑張りが集まって運命を少しだけ変えることができた。
脅威に曝される日常を通して日常の尊さを痛感させる物語は、第八話を経て急展開を見せた。日常ならざる新日常という姿をより鮮烈に描き、そしてその中で確かな日常というものを再確認させるものだった。
日常という希望が失われていく非情な光景と、絶望のどん底でなお光射す友情と優しさが悲痛の涙と暖かくて熱い涙で溺れてしまいそうになる物語だった。
特に第九話の「心の痛みを判る人」は世界を救う戦いのためにたった12歳の女の子の夢はもう叶えることはできないという非情さに嗚咽する程に泣くことしかできなかったし、第十一話、第十二話は60分間泣きっぱなしだった。
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