「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ウマ娘 3期」─キタサンブラックはみんなの夢になる─ 感想と考察 10~13話
第10話「お祭り」
夢のくびき
トレセン学園地域合同イベントの実行委員長にお祭りウマ娘として任じられたキタサンブラックは、このお祭りの中に広がるみんなの元気な笑顔、そしてダイヤちゃんやドゥラメンテの凱旋門賞挑戦の言葉を受けて、自身も世界の舞台で勝って、みんなを笑顔にしたい!と意気込むようになっていた。
だけど、トレーナーはそんなキタちゃんを素直に応援できない。その理由ははっきりとは口にはしなかったけれど、風邪を押して練習に励むキタちゃんの姿を見ていると、彼女はどこか背負い過ぎなように見えなくもなかった。
そんな中で、キタサンブラックが挑むのは宝塚記念。いつもと違って、シュヴァルグランがハナを取りに行く展開に、キタちゃんは思うようにレースを展開できず、最後にサトノクラウンが突き抜けて勝利。結局、キタサンブラックは馬群の中に沈んで、一番人気を裏切るまさかの敗戦。
「どうして……」と自身への落胆に沈むキタちゃんは、自分の思いと体が上手く一致しないような、そんな混乱に打ちのめされているよう。それは、簡単には出口の見つからない挫折のように思えて、不安感が募るようだった。
第11話「決断」
募る焦燥感、迷う思い
前走の宝塚記念で足が動かなかったことと、凱旋門賞に向けて一足先にフランスへ旅立ったダイヤちゃんの不在のせいか、どこか心此処にあらずなキタちゃん。そして、そんな心に身体が連動するようにして、練習でもどこか自分の力が出し切れないような感覚に陥り、それはますますキタちゃんを焦りへと駆り立てていた。
そんなキタちゃんにゴルシが先輩として一言、「ピークを過ぎたんだよ、お前は」と語りかける。それは認めたくないけれど、現実の問題で、だからこそより深刻に、より深く刺さるようだった。
だけど、その現実から目を背けてもどうにもならない。だからトレーナーもサトノダイヤモンドを追いかけて凱旋門賞に出走することが全てではなく、悔いの残らないような選択をしろと諭していた。
焦りを駆け出す気持ちに変えて
そんな中で、キタサンブラックはいつも応援してくれる商店街の人を見かける。みんないつも自分の走りに向かって声援をくれることを思い出せば、キタちゃんの中にはやっぱり残された時間を彼らのために走りたいという思いが湧いてくる。それは、キタサンブラックがみんなを笑顔にするために走るウマ娘だからでもあるように思う。
そして、キタちゃんのこれからの目標もとい夢は同年の春秋天皇賞連覇と秋シニア3冠。この不調からまた一つ生まれ変わるレースとして、次走は凱旋門賞ではなく、国内で天皇賞・秋に挑むことになった。
そんな天皇賞のレースは、雲行きの怪しい重馬場。ぬかるんだ馬場に足を取られてのスタートはどこか挫折に苦しむキタちゃんの今を反映しているようにも映っていた。だけど、サトノクラウンとの激戦、最後にキタちゃんが差し切り、見事に天皇賞・春秋連覇を果たすことができた。
スタートの出遅れが最近のキタちゃんの不調を表すならば、勝利で終わった最後はこれからのキタちゃんの明るい未来。それを表す結果になる…、はずだった。レース後のキタちゃんの上がったままの息は、このレースは勝てたとはいえ、もう体が付いてこないことを示しているかのようで、そこに決して明るい未来は見えていなかった。
第12話「キタサンブラック」
去りゆくヒーロー
キタサンブラックの決断、それは年内残り2レースでの引退だった。
でも、それは決して自らの衰えに後を追われるようなのではない。むしろ、みんなを自分の走りで楽しませて夢中にするのが私!!というキタちゃんだからこその、彼女の信念と誇りを全うするための引退宣言として聞こえていた。
憧れだから、キミがキラい
そして、そんなライバルの去り際にシュヴァルグランはムカついていた。「なんでだよ、ボクはまだアイツにちゃんと勝ててない。なのに、先にいなくなるなよ…」という呟きには、ライバルにぶつける強い想いがあった。
そしてさらに、シュヴァルはキタちゃんのことを「ボクはキミが嫌い」とまで言った。トレセン学園に入学した時から、自分とはまるで正反対にキラキラとしたキタちゃんは自分にないもの全てを持っているように映っていた。でも、それは単純な憎しみや妬みというわけでもないように見えていた。
それはむしろ、シュヴァルにとってそんなキタちゃんがいつか追いつきたい姿だからこそ、その憧れに飲み込まれてしまわないようにと、敢えてそれを遠ざけるようにするための「キラい」という言葉だったのだと思う。彼女の背中を見て憧れに終わる一人でいたくないからこそ、彼女を突き放すようにして競うライバルになるための本心とは裏腹の刺々しい感情は、シュヴァルグランの芯のある強さを感じさせていた。
シュヴァルグランがぶつける想いの意味
そして、挑むジャパンカップ。それは、シュヴァルグランからキタサンブラックへの今までの憧れも嫉妬も全てぶつける舞台となっていた。
そして、ゲートが開いた直後、「いつも通りキタサンがみんなを引っ張る展開、だけど今日は逃げ切らせはしない…!!」というシュヴァルのモノローグは、このレースのことだけではなく、今までの競争全部を引っくるめて、このまま引退へと勝ち逃げはさせないぞという感情も汲み取ることができるようだった。
そんなレースの最後のラストスパート。「ボクはキミが嫌いだ」とキタちゃんに言い続けていたシュヴァルの心が、最後の最後に差し切ろうという時に「ボクはキミが、大好きだ!!」に変わったのは、まさしくシュヴァルの想いが果たされたことを告げていた。やっと勝てた、勝つことができた…。だから、この瞬間だけは彼女へ憧れてきた本心に素直になってもいい、そしてそれが去りゆく彼女への感謝と惜別の言葉でもあるように聞こえていた。
第13話「そして、あなたの……」
ラストラン
迫るキタサンブラック、最後のレース。
そして、そんなラストランにみんなも今まで以上に期待をかけるし、みんなに笑顔を届けようとキタちゃんも覚悟を決めていた。それに、チームスピカのみんなのアイディアが詰まった特別な勝負服が送られたことも、まさにみんなからの思いを託されたことを示していた。
そして、ゲートの開いたラストレース、有マ記念。特に後ろに率いた15人のウマ娘をキタサンブラックが後ろ目で見渡す一周目のホームストレートの場面は、みんなの思いを背負うキタサンブラックというウマ娘を象徴的に表していた。
さらに、「勝ちたい…勝ちたい…勝ちたい…」と呟きながら4コーナーに突っ走ってくるキタちゃんが、そこで観客の声援を目に映し、さらに加速する姿は、まさしくスターの走り。みんなの声援を受ける輝く星としてのキタサンブラックと、そのお返しとしてみんなを夢中にさせるキタサンブラックという彼女らしさに溢れていた。
キタサンブラックというウマ娘
そして、スターの引き際を有終の美で飾ったキタちゃんの走りは、みんなに夢と希望を与える。凱旋門賞以来、調子を落としていたダイヤちゃんには次の春からの復帰に挑むという勇気を与えていた。さらに、キタちゃん自身がトウカイテイオーにそうされていたように、トレセン学園のオープンキャンパスに集う幼いウマ娘たちもきっとキタちゃんの走りに魅了されて、この地に夢を目指していたように見えていた。
とあるスターに夢を貰って、その夢に向かってライバルと幼馴染と走り続けて、そして今度は自分自身がみんなに夢を振りまく。それこそがキタサンブラックというウマ娘の走りだったことを、このレースは物語っていた。名前はブラックと言いながらも、まばゆいばかりの光を放っているのが、このキタサンブラックだった。
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