「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ウマ娘 3期」─交わり合う、キタサトの夢─ 8~9話 感想と考察
第8話「ずっとあったもの」
夢への歩みが立ち止まってしまった時
有マ記念でダイヤちゃんに敗れたキタちゃんは、再び挫折に陥っていた。そして、今回の挫折は走りの実力以上に、堂々と出で立っていた精神面でダイヤちゃんに完敗したと打ちひしがれるもので、想像以上に根が深いものだった。
そして、年が明けての初詣。ダイヤちゃんとお参りする中で、キタちゃんは彼女の夢を聞かされる。それは、凱旋門賞で勝つこと。ひたすら前を前をと突き進むダイヤちゃんの姿は、立ち止まってしまっている今のキタちゃんとは対象的に見えていた。
そして、悩んだ末にキタちゃんはもう一人のライバル、ドゥラメンテのもとを訪れる。そして、彼女に問い返されてのは、「走って勝って、何を成し得たいのか」ということ。それにキタちゃんは答えられなかった。
最初からあった夢
そんなキタちゃんの心中は、以前はちゃんと「テイオーさんみたいにみんなを笑顔にしたい」という夢があった。だけど、それは叶えられなくて…、その果てに自分らしい走りをしてきて。そして、今は自分の走りで何を成し得たいかは失ってしまった。そんなところで、キタちゃんは初心を取り戻すかのようにテイオーのもとを訪れていた。
そして、テイオーが答える言葉もまた、キタちゃんが思っていたことと同じように、ルドルフ会長みたいな無冠の3冠ウマ娘になりたくて、でもなれなくて……、というもの。でも、テイオーがキタちゃんと違うのはここから。夢を叶えられなかったところで、それでもライバルや応援してくれる人たちの存在に背中を押されて、新たなユメを見続けて、走り続けることができたと語ってくれた。それが、テイオーからのアドバイスだった。
じゃあ、キタちゃんにとっての夢をリスタートさせてくれる人は誰なんだろうか。そんな時に見つけたのが、いつもの商店街の人たちだった。有マ記念で勝てなかったキタちゃんだけど、彼らはそんなキタちゃんの姿にこそ力を貰っていて、元気にさせられていた。
キタちゃんは自分の中ではスターになれなかった…ともう夢を諦めていたのかもしれないけれど、商店街の応援してくれる人たちの中ではキタちゃんはもう立派なスターだった。そんな小さな事実が、キタちゃんに再び夢を見させる原動力をくれたように見えていた。「夢は叶えられなかった。でも、やっぱり諦めたくない……!!」というのはそういうことなように思えた。
それに、そもそも「テイオーさんみたいになりたい!」という夢を諦めたキタちゃんが、そのテイオーにアドバイスを求めたという時点で、実はキタちゃんの心の底では最初から夢を諦めていなかったんじゃないかという気さえしてくる。いつもの商店街という灯台もと暗し、実は身近なところに夢のヒントがあったということも、まさにそんなことを思わせる。だから、キタちゃんは最初から強い娘。勝ちに、夢に導かれるウマ娘なように思えるようだった。
第9話「迫る熱に押されて」
幼馴染とライバル
天皇賞・春で再びぶつかるキタちゃんとダイヤちゃん。しかし、二人はそんな中で海を目指して旅に出よう!と宛もなく電車を乗り継ぐ放浪へ出掛ける。
そして、二人の気ままな旅路は穏やかでのどかな時がひたすらに流れる時間であり、それはまさに二人の「友情」を確かめ合う時間として映っていた。
だけど、旅の終着点でキタちゃんが改めて口にしたのは、そんな「友情」とは正反対のことだった。「私はみんなを笑顔にしたいの。たくさんの人を熱く夢中にさせて、笑顔にしたい」と。そして、「だからあなたに勝つ、サトノダイヤモンド」と宣言する。それは、明確に幼馴染のダイヤちゃんのことを、ターフ上のライバル・サトノダイヤモンドとして見直すものだった。
二人三脚で、共に駆け上がる
そして、いざ来たる天皇賞・春。レースはキタサンブラックが先行するところを、サトノダイヤモンドとシュヴァルグランが競り合いながら追い詰める形に。そして、そのまま第4コーナーを通過し、最後の直線に。
そこで爆発したのはキタサンブラックのラストスパート。強靭な走りで後続を突き放した。
それに、キタサンブラックが一心不乱な走りの中で覗かせた笑顔というのは、ただひたすらに必死に追いかけるサトノダイヤモンドとは対象的に映る姿だった。それは、まさしく「みんなを自分の走りで笑顔にしたい!」というキタサンブラックを象徴する姿だった。
そして、レース後の二人が言葉を交わすシーン。ダイヤちゃんの「次は負けない。私は、もっともっと強くなるから」という言葉に、キタちゃんは「ダイヤちゃん、私たちのレースでみんなを夢中にさせよう。これからの私たちの走りで世界中のみんなを熱狂させるの、お祭りみたいに。ダイヤちゃんとならどこまでだって行けるから」と返す。それは二人が幼馴染であり、ライバルでもあるという二人三脚で走り続けてきたことをこれ以上なく表す言葉だった。
二人のどちらかが欠けたら、その一方が全てのレースを勝てるというのではなく、むしろ全て敗れ去ってしまうような。二人が二人でいたからこそ、ここまで二人は高め合って、共に頂点へと駆け上がってこれたという関係性を一心に感じるレースだった。
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