「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ウマ娘 3期」─ダイヤが勝てた理由、キタサンがもっと強くなれる理由─ 感想と考察 7話
第7話「あたしたちの有マ記念」
ジャパンカップに出走したキタサンブラックとシュヴァルグラン。結果は見事にキタちゃんがG1・3勝目を飾り、年末の有馬記念もとい有マ記念に向けて勢いを増していた。
一方で、シュヴァルは3着止まり。それでも世界からウマ娘が集うこのレースでこの結果は上々とも言える。しかし、シュヴァルにとっては、姉・ヴィルシーナと妹・ヴィブロスがG1勝利を勝ち取っている中で、姉妹の自分だけがG1未勝利なことに大きなプレッシャーを感じていた。それだけに年末の有マ記念は、このシュヴァルにとっても挑むべき大きな舞台となっていた。
しかし、そんな堅実な強さを見せるシュヴァルと、今勢いに乗っているキタサンブラック、そしてサトノダイヤモンドとの違いは決定的だった。
そして、それは「勝利への願いの信念」とでも言うべきもの。
シュヴァルグランの勝利への信念
そして、シュヴァルグランの勝利へ懸ける思いというのは、あくまでも姉と妹に続いて自分もG1の栄冠を掴みたいというもの。もちろんそれも自分のアイデンティティに根ざした勝利への渇望であり、立派で強靭な志し。だけど、それだけじゃ真に強い、世代を代表するような圧倒的なウマ娘にはあと一歩届かないのかもしれない。
キタサンブラックの勝利への信念
キタサンブラックにとってのそれは、まずトウカイテイオーへの憧れ。特に来たる有マ記念 は、キタちゃんがテイオーへの憧れを持つきっかけとなったレースであり、並々ならぬ意気込みを携えていた。
そして、もう一つは、サトノダイヤモンドとのライバル関係。あの有マ記念のアツさに魅せられて、テイオーとマックイーンのように自分たちもあの舞台で共に競い合いたい!という原点が、キタちゃんをここまで連れてきていた。そして、今度のレースがまさにそれを叶える時。
そんなキタサンブラックというウマ娘を描く物語に基づいた勝利への信念がここまで。これはシュヴァルグランも持っていたもので、ここから先が、シュヴァルグランにはなかったさらなる強さの活力だと思うのだ。
それはただ純粋なる、勝利への闘争心。「でに勝てたら、年度代表ウマ娘になっちゃったりして〜」と言うキタちゃんは、冗談めかしてはいたものの、ウマ娘としてトップオブトップを目指す野心を隠せずにいたように見えていた。そして、そんな溢れ出るような勝利を求める本能を持ち合わせていることこそが、圧倒的な実力を持つウマ娘の条件なようにも感じられるようだった。
サトノダイヤモンドの勝利への信念
そして、もう一人、サトノダイヤモンド。彼女もまたウマ娘・サトノダイヤモンドというストーリーを語る上では、キタサンブラックと共に見たあの有マ記念に心を熱くさせられて、二人で共にこの舞台を目指してきたという物語があった。
そして、飽くなき勝利への闘争心という意味では、ダイヤちゃんはキタちゃんよりも遥かに強い執念も持っていた。それは、サトノ家に最高の栄冠をもたらすという信念。自らの走りでG1に勝てないというサトノのジンクスを打ち破り、サトノクラウンなどもそれに続く中で、もう一つ上積みしようという有マの栄冠へ懸けるダイヤちゃんの思いは尋常ならざるものがあった。
その現れは、有マ記念当日のキタちゃんへの態度にも現れていたように思う。いつもは二人で「ダイヤちゃん」「キタちゃん」と呼ぶ仲だけど、今日だけは「私が勝つよ、キタサンブラック」と言う。ダイヤちゃんの目には、そこにいるのは幼馴染のキタちゃんじゃなくて、戦い勝つべき本気の敵・キタサンブラックが見えていたのだと思う。
そして、そこにキタサンブラックとの明確な差が現れていた。もちろん、キタサンブラックの勝利への欲求が弱いなんて言うつもりはないけれど、それでも今日のサトノダイヤモンドの勝利へ懸ける思いは確実にキタサンブラックを凌駕するもののように見えていた。それは、シュヴァルグランに対しても同様。
だからこそ、有マ記念のレース。最後の最後にハナ差でサトノダイヤモンドはキタサンブラックを差し切って、映えある最高の栄冠を掴むことができたのだと思う。
共に駆け上がる勝利の頂き
そんなこんなでここまではそれぞれのウマ娘が心に秘める自身のストーリーに由来する思い以上に、ウマ娘としてプロフェッショナル的な純粋な勝利への渇望こそが強さの理由だと示してきたが、一転して前者の方にもスポットライトを当てたい。
まず有マ記念のレース後、ダイヤちゃんの勝利を屈託のない笑顔で褒め称えるキタちゃんには、レースの中でも外でも大切な戦友だというリスペクトが伺えるものだったし、逆にダイヤちゃんからキタちゃんへの称賛の言葉もそうだった。
特にダイヤちゃんの「必死だったよ私も、ずっと追いかけてきたから、キタちゃんの背中」という言葉は、二人が二人で一緒に走り続けてきたからこそ、この大舞台で一着二着という頂きへ辿り着くことができたんだというかけがえの無さを染み入るように感じさせるものだった。それに、こういう自分を形作る原点のストーリーこそが、何よりも勝利の必須条件なんだと改めて確認させてくれるようだった。
それでも、ウイニングライブを控える中で、やっぱりキタちゃんの中には悔しさがこみ上げてくる。少し歪ませた顔はそれを隠すことができないように見えていた。だけど、「またあの背中だ…」と呟いた後の切り替えたような笑顔に思うのは、今回の「またあの背中だ…」は挫折ではなく、これからもっともっと強くなる予感を感じさせていた。ここからまた、キタちゃんとダイヤちゃんが二人でさらなる高みへ駆け上がるストーリーの第二章が始まることを告げているようだった。
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