「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ウマ娘 3期」─キタちゃんを”リスタート”させた3つの転換点─ 感想と考察 1~4話
第1話「憧れた景色」
負けから始まったキタサンブラックのクラシック戦線。ドゥラメンテの圧巻の追い上げには、どこか気が抜けてしまうような感覚もあったし、悔しさよりも先に驚きのリアクションをしていたキタちゃんもきっとそう感じていたように見えるものだった。
だけど、次のダービーは負けられない。キタちゃんの憧れのウマ娘・トウカイテイオーも勝ったレースで、自分もその栄冠が欲しいと張り切っていた。だから、ダービーは他のウマ娘以上にキタちゃんにとって大事なレースで、まさにキタちゃんのための舞台。
G1の舞台に自信を持てずにいたところを、サトノダイヤモンドに「自分らしく走ればいいんだよ」と言われて、キタちゃんが自信を取り戻せたのも、まさにダービーが自分らしさの詰まった舞台だったからということのようにも思えるものだった。「ダービーはお祭り」という言葉も、まさにダービーがキタちゃんのためのレースということを暗示させるもので、夢はもうすぐそこ…という気すらしていた。
だけど、ダービーの4コーナーから最後の直線。キタちゃんの適性には不利な坂が行く手を阻む。そして、圧倒的な実力のドゥラメンテ、そしてサトノクラウン…と、みるみるうちに他のウマ娘たちがキタちゃんを追い越していく光景には、どこか力が抜けてしまうようにして涙腺から涙が溢れ落ちてしまった。
結局14着で終わってしまった一生に一度のダービーは、夢のあっけなさをまざまざと突きつけてくるものだった。そして、そこには悔しさの涙というよりも、情熱の行く先を失ってしまった喪失感にも似た涙があった。
第2話「スタートライン」
ダービーでのドゥラメンテの遠すぎた背中を思い出したキタちゃんが思うのは、自分はスターにはなれないんじゃないかということ。幼い頃に見たテイオーの走りに魅了されて、「いつか自分もああなりたい!きっとなれるはず!」と信じて走ってきていた。だけど、所詮、憧れは憧れにすぎないということなのか。そこにキタちゃん自身の自信は付いてきこなかった。
そんな時に舞い込んできたのは、宿敵ドゥラメンテの骨折のニュース。菊花賞でのライバルの欠場は、まさに目の上のたんこぶが取り除かれたというもので、思わずキタちゃんもライバルの不幸をチャンスだと内心喜んでしまった。
でも、それは憧れのトウカイテイオーみたいな輝いたウマ娘とは正反対の姿で、一番なりたくないかっこ悪い自分がそこにいた。そんな不甲斐ない自分に悔し涙を抑えきれないキタちゃんの心中は、どんどん憧れから遠ざかっていく自分への虚しさと、そこで踏ん張ることのできない自信のなさでいっぱいだったように見えていた。
それでも、ネイチャはそんなキタちゃんのかっこ悪い姿もズルいところも全部ひっくるめて、共感して認めてくれた。かつて自分がそうだったように、そういう邪念も「勝ちたい!」という思いの現れだから、むしろそれが自分自身なんだと胸を張って貫き通すことで純粋な「勝ちたい!」へと昇華させてしまえ!というエールを先輩のネイチャはくれていた。
そして、キタちゃんは憧れだったりスターになりたいだったりと常に誰かの視線を気にすることを止めて、ただゴールだけを見据えて自分らしい走りを突き通すように吹っ切れた。
それはきっと、一番になるためには「憧れ」という他人の軌跡の人まねでは果たせないということなんだと思う。ただただ「勝ちたい!」という思いに従うことで、次第に「勝てる自分」になっていくことができるし、さらにその結果として誰かを夢中にさせる唯一無二のスターにもなることができるのだと思う。そして、菊花賞を勝ち取るレースを走りきった時、キタちゃんはまさにそういう存在になっていた。
第3話「夢は終わらない」
ダイヤちゃんは来たるクラシックでG1勝利をサトノ家にもたらしたい、キタちゃんは有馬記念で走りたいとそれぞれが抱負を語る中で、ゴールドシップが宣言したのは今年の有馬記念を以てトゥインクルシリーズから移籍するということだった。必殺のまくりもまくりきれず、ゴルシもだんだんと自らの衰えを自覚する中で、その決断は必然のものだった。
だから、今年の有馬記念は次の世代へ勝利を以て継ごうとするゴルシと、そんな先輩に強気で引導渡そうとするキタちゃんの世代を超えた勝負になっていった。
そして、有馬の舞台。武者震いをしながらも先頭を突っ走るキタちゃんの走りはまさに勢いのいい若武者というものだったし、相変わらず最後方に潜むゴルシはベテランの走り然としたものだった。そして、ゴルシはロングスパートでまくりをかけるものの、差しきれずに結局は8着。キタちゃんも逃げきれずに3着という結果に終わってしまった。
今年の有馬は結果だけを見れば、ほろ苦いものだった。だけど、この有馬が初めてのキタちゃんと最後のゴルシというコントラストに浮かぶ、世代を跨いで夢を託すような光景は希望だとか明るさに溢れたものでもあった。そして、長くキャリアを重ねたゴルシの心中はキタちゃんには想像も付かないものだけど、そんな先輩が示してくれた道筋に従って、今はただ目の前のレースに全力で挑むという决意は確かなキタちゃんの力になっていた。
第4話「あたしだけの輝き」
有馬記念に、大阪杯と勝ち切れないレースが続くキタサンブラック。周りのライバルと比べて、目立った走りの強みがない自分に不安になってしまっていたけれど、だからこそ成長の時。ナイスネイチャやスピカのみんなの助言を受けたキタちゃんは、その身体の丈夫さを活かして、春の天皇賞に向けたハードトレーニングに挑むことに決めた。
一方のサトノダイヤモンドは、クラシックデビューの皐月賞に向けて、仕上がりは上々であとは勝つだけ!というばかり。合宿前のキタちゃんと互いの目標に向けて「お互い頑張ろうね!」と交わした言葉は、高め合う二人の関係をアツく感じさせるものだった。
しかし、キタちゃんは大きな壁にぶつかっていた。ブルボンに課されたトレーニングのノルマをなかなか超えられず、成長のスランプに入ってしまったようで、精神的にも「もうダメかも…」と漏らしてしまう程に行き詰まっていた。
だけど、そんな時にキタちゃんが思い出したのは、「お互い頑張ろうね!」と約束したダイヤちゃんのこと。そして、変革をきっかけを掴もうというキタちゃんは、気付けば皐月賞レースの中山競馬場へ向かっていた。きっと、そこにはダイヤちゃんの勝ちレースを見れば、自分も奮起できるという思いがあったように見えていた。
ところが、皐月賞のダイヤちゃんは敗北に終わってしまった。それでも、彼女は「ダイヤモンドはどのような困難にも砕けることはありません」とブレることなく、迷いとは無縁に前を向き続けていた。そんなダイヤちゃんは傍目から見れば毅然とした態度のように見える。
とはいえ、「必ず勝って見せます」と宣言していたことを知っているキタちゃんの目には、ダイヤちゃんも内心では、悔しさはもちろん、レース前の強気の宣言を果たせなかった恥ずかしささえ抱えているかもしれないという風に映っているようにも思えた。だから、キタちゃんはただ強くなりたい!というだけではないダイヤちゃんの姿。すなわち弱さを抱えながらも表に出さず、強く前だけを見据える姿に、強い強い力を貰えたのだと思う。
そんな単純に強くて目標になる先輩ウマ娘からは得られないエネルギーが、挫折を経ながらもへこたれないダイヤちゃんにはあった。さらに、ダイヤちゃんはは親友ということもあり、キタサンちゃんは余計に彼女はに共感できて、それと重なるように「私もへこたれていられない!」と壁を超えることができたのだと思う。
だから、キタちゃんが勝ち取った春の天皇賞の盾というのは、精神的に強くなったキタちゃんだけでなく、キタちゃんとダイヤちゃんの二人の絆がもたらしたものでもあるように感じた。特別な相手がいるからこそ湧き出る感情が、成長の大きなヒントなのかもしれない。
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