「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」

「俺ガイル 完」─偽りの青春にさよならと贖罪を─ 感想と考察
雪乃の進む道 ─3期 第2話─
雪乃の葛藤。それは、自分がどうしたらいいのか、何をしたいのかがよくわからない。それは母が後を継ぐ姉・陽乃のことを全て決めて縛り、一方で雪乃のことは何もかも自由にしていいと言ってきたことで、かえって雪乃にとってはどう振舞ったらいいのか分からなかったという過去から現在に至る病。
だから、今度は自分の意志で問う。たとえそれが「できない」という分かり切っていた答えだったとしても、自分が父の仕事を継ぎたいという雪乃自身の思いを姉や親に伝えると雪乃は決断した。
そんな雪乃の陽乃に対する「せめてこれだけはちゃんと言葉にして、納得できるようにしたい」という宣言が全てを物語っているのだと思う。自分の心に対するケジメみたいなものが、そんな納得に込められているのだと思う。
プロムが始まる、雪乃のけじめも始まる ─3期 第3話─
いろはが言い始めたことだけど、そこに関わろうという雪乃にとってもそれは大きな意味があることで、彼女にとっての「本物」を示す場。つまり、それは雪乃が自分の力で何かを成し遂げられるということや、独り立ちできるということを示す場として、このプロムに臨む決意をしたということだった。
そして、結衣の回想の中で、雪乃の部屋に大切に仕舞われていた八幡とのツーショット写真が隠されていたシーン。あれも雪乃の本当に欲しい「本物」が今まさにここにあるということを二重の意味で示す─八幡の目指すような「本物」に自分もなって彼に追いつきたいということと、この回想が思い出されたこの瞬間に雪乃が臨もうとするプロムに雪乃にとっての「本物」の手がかりがある─、そんな場面だったのだと思う。
雪乃の独り立ちと置いてけぼりの結衣 ─3期 第4話─
順調だったはずのプロムプロジェクトに急転直下。それは、雪ノ下母の忠言。だけど、雪乃はそれに立ち向かおうとする。そして、ここで雪乃が自身一人でこの壁を乗り越えれば、その時初めて雪乃は母から認められることにもなる。だから、彼女は八幡にも「手伝わないで…」と言う。
だけど、そういう彼女の表情は諦めのような切ないものを浮かべていた。だから、彼女自身が拒否しても、陽乃に「君たちはただの共依存だ」と言われても、比企谷八幡は彼女のもとへと向かう。「いつか助ける」という約束が彼にそうさせていた。それに、言わずとも分かり合える関係を「本物」だと信じる彼にとって、そんな風にどうしようもなく分かって理解できてしまう雪乃の心に応えることは「本物」の一つであり、彼の貫くべき信条なのかもしれないように思えた。
だけど、そんなことを巡る平塚先生との電話越しのやり取りを眺め、最後には多くを語らずに彼女の許へと戻ろうとする八幡のことを、由比ヶ浜結衣はただ見送ることしかできなかった。この3人の関係を守りたい結衣にとっては、雪乃のことも八幡のことも大事で、そんな中で困っている雪乃を助けようとする八幡を結衣に止められるわけがない。だから、「行かないでって言えなかった」のだと思う。でも、それだけに、彼女の本心の「せめて少しでも…」というワガママのように頬を伝う涙が切なかった。
八幡と雪乃、二人の原点 ─3期 第5話─
そして、いろはにも打ち明ける、比企谷八幡が雪乃を手伝う理由。そこで語ったのは、「話が拗れてることも依存がどうとかも、全部俺が招いた責任だ。だからその帳尻をちゃんと合わせておきたい」ということ。それは「いつか助ける」という雪乃と向き合うための約束もそうだけど、同時に八幡が自身とも向き合うということでもあるように映っていた。
そこで、「俺が手伝ってもいいか」と問いかける八幡だったが、自らの意思を決めた雪乃には頑なに拒否される。だから、そこで応戦する八幡の返答は「だったら対立する」というもの。助けるのがダメなら、対案でプロムを実現させてやるという二人の構図は、懐かしさすらある二人の原点に立ち戻る光景だった。そして、それこそが何もかもを誤魔化さずに徹頭徹尾に向き合うという象徴にようにも感じられていた。
結衣と雪乃、宣戦布告と和解の約束 ─3期 第6話,7話─
「選ばなければいけない」という八幡。そんな彼が雪乃との対立構図に置かれたところで、保護者たちに二者択一で選ばせるための当て馬企画を立てることに決め、それと同時に結衣もそんなを八幡手伝いと言い出した。
そんな八幡だか、彼の真意は雪乃のプロムを成功させてあげること。だけど、その反面、結衣はもう少しだけ八幡の隣にいたいと願う。でも、彼女はこのままの関係を終わらせなければならないことも分かっていて、だけど終わらせたくない…。
そんな結衣と雪乃の久しぶりの対面。そこで、結衣は雪乃に「いずれヒッキーに想いを伝える」と暗に告げる。それは宣戦布告であり、結衣なりに自分と雪乃に対して向き合った結果なのだと思う。だけど、それと同時に結衣は「来年もずっと一緒にいようね」と雪乃に対して和解の約束もする。それはきっとわがまま。3人の関係をはっきりさせなければいけないと分かっていて、覚悟を決めたという一方で、「この3人で一緒にいたい」という自分の素直な欲にも従った結果が、この一幕だったのだと思う。
結衣が本物を主張するほどに、それは偽物の色をしてしまう ─3期 第8話─
雪乃と八幡の原点の交通事故、それに訴えることでプロムの案は何とか雪ノ下母及び保護者サイドに通すことはできた。だけど、それは陽乃の言う通り、共依存の産物。
それに対して、由比ヶ浜は「そんなの離れているだけで、だから関わっていないといけないんです。それがちゃんと終わらせるために必要なことだから…」と反論するけれど、きっと陽乃にとってはそれすらも共依存の証として映っているのだと思う。だから、「比企谷くんがガハマちゃんに頼る共依存が一番重症だよ」という言葉は、今までの関係のこともそうだし、この八幡を庇うような結衣の言動のことも指していたように思う。
でも、そんな陽乃の「一番頼られるガハマちゃんが一番大人のフリをしなくちゃいけなくなっているんだよ」という言葉を聞いていると、結衣が自分のことを「一番ワガママでズルい」と言うのも、そういうしわ寄せの結果なのかもしれないとも思わされるようだった。でも、一番みんなの思いを背負っている彼女のものだからこそ、陽乃に返す「依存じゃないです、だってこんなに痛いから」と頬に涙を伝わせる姿を、決して偽物の紛いものなんかではなく、「本物」であると信じてあげたくもなってしまう。
偽物の私たちにさよならと贖罪を ─3期 第8話─
そして、現に雪乃の修正案が採用されたわけだけれど、それすら八幡の想定通りであり、それは雪乃が結局八幡に依存していたということ。そして、それは雪乃にとってみれば、紛いものの結果と紛いものの関係でしかない。
さらに、それは雪乃に時に喧嘩したり、時に頼ったりすることができたという居心地よいと思える本物の時間を初めてくれた八 幡のためにも、終わらせなければいけないものだった。だからこその「この関係を終わらせましょう」という言葉と、「由比ヶ浜さんの願いを叶えてあげて」という贖罪的な意味すら孕んだ言葉を雪乃は告げたのだと思う。「私はもう大丈夫」という嘘の言葉の共に…。
終わりへの一歩 ─3期 第9話─
勝負の結果として、雪乃の願い通りに結衣の願いを叶えようという八幡。だけど、欲張りだから願い事を一つに決められないという結衣のいくつもの願いの中には、ヒッキーのお願いを叶えるということもあると言う。それは、まさしくこの三人のお互いに深く関わり合うことで成り立つような関係を表しているようであった。だけど、雪乃が八幡に「この関係を終わらせましょう」と言ったように、結衣も「それから自分の願いもちゃんと言う」と誓うのだった。
それぞれの「本物」の在り処 ─3期 第10話─
プロムの本番を終えたタイミングでの雪乃の母への将来に携わりたいことに対する表明を。それを彼女の母は表面上は受け入れた。だけど、陽乃は納得していない。それは陽乃の二十年との交換でもあるから。
でも、陽乃のそれと交換する雪乃のこの一年には価値があると結衣と八幡の二人は行ってくれた。でも、だからこそ、雪乃はそれを終わらせる時だとも言う。それはこの一年に掛けてきたものを回収するために、という意図があるように感じられていた。でも、だけど、八幡はそれをやっぱり容易には受け入れられない。
そして、陽乃の魂胆と本心。彼女は雪乃のことについて、「どんな決着でもいいから納得させて欲しい」と言う。陽乃の言う「あの子の願いはただの代償行為でしかないんだから」というのは、きっと雪乃の願いとこの一年間のことなんだと思う。実行委員会みたいなごっこ遊びを以てして、父と同じ政治の仕事をやりたいというのは、確かに代償行為でしかないし、例えそこにどんな思いがあろうとも形としては空虚な偽物の形でしかないことを否定はできない。
さらに、その延長線上に、この八幡や結衣との関係をはっきりさせないこともああるのだと思う。友達や恋人みたいな関係が欲しいけれど、それを形にしてしまえばこの三人の形は終わってしまうから。だから、敢えて曖昧な共依存という深いけれど、決して決定的ではない関係のままでいる。それを陽乃は認められないんだと思う。
だけど、陽乃だってそれは同じ。「20年も騙し騙し生きてきた」という言葉は、興味もない父の仕事を継ぐ運命や育てられ方に対する自分の反発心みたいなものを押さえつけるために、「長女だから」というような無理矢理に自分を納得させるための本心のない理屈を生きてきたことを指しているのだと思う。そして、そのうちに自分の本心が何なのかも分からなくなってしまった。そんな人生を妹には歩ませたくないという姉心が陽乃にはあったのかもしれない。「曖昧な現状維持の関係に逃げて、自分の本心まで有耶無耶にしないで欲しい」、そういう意図が雪乃に向けられていたのかもしれない。
しかし、平塚先生は「君たちはそんな関係性じゃない」と言う。共依存なんかではないと。続けて、先生は「君の気持ちは言葉ひとつで済むようなものか?」と八幡に問いかけた。きっと、その意図は陽乃の言う「共依存」ではなくて、自分で自分なりの「本物」として三人の関係を定義付けろと言うことなんだと思う。なぜならそこにこそ比企谷八幡のごまかしようのない「本心」があるから。だから、つまりは平塚先生も陽乃と言いたいことは同じなのかもしれない。
八幡と結衣の交錯 ─3期 第11話─
八幡は「部活を終わらせてもいいと思う」と言う。でも、「あいつが妥協の上でそれを選んだのだとしたら、それを認められない」とも。でも、そんな理屈はただの理屈でしかなくて、彼が自分でも認めたように八幡のカッコつけない本音は「俺はあいつと関わりがなくなるのが嫌で、それが納得いってないんだ」というもの。やっと言えたこの言葉こそが、八幡の本音の願いであり、本物なんだと思う。
そして、結衣はそれに「伝わらなくてもいい。けど、そのぶん分かろうとするからいいの」と応え、「三人でいたい」という自らの願いも込めながら「ちゃんと言って」と彼を雪乃の許へ送り出す。それは、優しい結衣の彼女らしい後押しなのだと思う。そして、結局八幡と別れた後に「言葉なんて出ない、好きだなんてたった一言じゃ言えない」と涙を滲ませた彼女だけど、彼女なりの一言じゃな言い表せない「好き」の言い方が、そんな八幡への後押しだったのかもしれない。そう、彼女は優しいから、由比ヶ浜結衣は優しい女の子だから。
そこで、浮上したのがダミーだったはずの合同プロムの実行。今更行う理由も行える余裕もないのに、強行しようとするのは完全に八幡の個人的な理由だった。だけど、だからこそ、それは本物なのだと思う。奉仕部がなくなった後も、雪乃と関わり続ける方法がこの合同プロムに雪乃を巻き込むしかなくて、だから八幡はそれを果たす。それは「お前の人生に関わらせてくれ」という告白なのだ。
結衣の「本物」 ─3期 第12話─
全てが終わり、また春が始まる。そんな中での最後のシーン、結衣の「私の好きな人に彼女みたいな人ができたっぽくて~….」という言葉は、彼女にとって、この3人の関係というのが何の隠し立てもせずに、繕わずに一緒に過ごせる「本物」なんだということを改めて確信させるものだった。そして、それはほろ苦いものかもしれないけど、でもそれ以上に眩しいものだった。掛け替えのないものを結衣はもちろん、この3人は手に入れたんだという象徴のようなハイライトだった。
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