「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「岬のマヨイガ」─優しさと暖かさに満ちた日常の再生─ 感想と考察
Publish date: Oct 2, 2021
悲しいことが起きて、そのキズが癒えきらなくても時間の経過と共に日常は再びやって来る。その新しい日常の中で不意にキズが痛むことはあるけれど、確かに優しさと暖かさが満ちていた。
一度壊れてしまった日常は細々としたものだけれど、色々な人が身を寄せ合って再び日常を歩み始めている。家族を失ってひとりぼっちだったユイとひなたは、おばあちゃんとマヨイガに招き入れられて家族になれた。
だけど、封印を解かれたアガメが現れた。人々の悲しみや恐怖の象徴である怪物は、助け合おうと繋がり合う人々を断絶する。
キズは決して完全に癒えることのない中で、どうして私だけこんな思いを…って立ち直れなくなりそうになることもある。でも、その痛みはきっとあなただけじゃない。同じ痛みを知っている人、分かってくれる人がいて手を差し伸べてくれる。
アガメが再生の道に立ちふさがっても、たくさんの人が、たくさんの「ふしぎっと」と呼ばれる妖怪たちが力を貸してくれる。いっぱいの優しさが立ち向かう力をくれる。私に今できること。それが立ち向かう側でも、それを助ける側でも、祈った優しさと不思議な縁はいつか花が咲くから。
本作は東日本大震災から10年目に際して「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の1つとして制作された作品だそうだが、被災者の視点だけではなくて支援する側にも「今できること」を後押しするメッセージが込められていて、この作品を見終わった時に残る気持ちに何らかのきっかけを与えてくれるものだった。
また、震災を感じる景色も確かにあるけれど、一貫して地域の人々と自然の穏やかさが印象的で日常の再生を感じた。そして、とにかく人の暖かさが身に染み入るようだった。
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