「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「花咲くいろは」─夢を目指して、私は走り続ける─ 感想と考察 11~20話
第十一話「夜に吼える」
しかし、結局は旅行雑誌による喜翆荘の評価は低く…。納得いかないみんな、そして特に緒花は雑誌社に乗り込むことにしてしまう。なんだか無茶にも思える緒花だけど、きっとそこにはみんなの頑張りを認めて欲しい、頑張ることが輝けることに繋がると証明したいという思いがあるように見えていた。
そして、東京まで来た緒花だけど、あの評価記事を書いたのはそもそも喜翆荘に来てもいない母・皐月だった。「大人の事情だからしょうがないし、今までだってそうやって仕事をして緒花を育ててきたんだから」というお母さんだけど、緒花は今までお母さんに我慢してきたこと全部とまとめて怒りを爆発させてしまう。
でも、お母さんからの言葉に緒花も頷ける部分があるのだと思う。「人に胸を張れる立派なものだけが仕事じゃない」と自分で言いながらも、それで緒花を育ててくれたお母さんの頑張りと優しさまでは、緒花も否定できないはず。でも、自分の頑張りが報われてくれないことへの悔しさも確かにあるから、その二つの間で割り切れずに余計に悔しくなってしまう。
だから、そんなどうしようなくなってしまった時に、民子と徹さんが現れて、緒花は思わず泣き出してしまったんだと思う。今も昔も頑張りが報われてこなかった東京の中で、頑張れば頑張った分だけ認めてきてくれた喜翆荘という居場所を感じることができて、どこか安堵感といっそう際立つ悔しさとが涙に溢れてしまったように見えていた。
第十二話「じゃあな。」
そして、母・皐月をさらうことにした緒花だけど、同時に徹さんは孝一も連れてこいという条件を出してきた。
しかし、孝一を連れ帰ろうとした先で、緒花は 孝一に想いを寄せるバイトの同僚の子と出会ってしまう。そして、緒花は彼女の姿に、退屈でドラマのない街と思っていた東京でも、ちゃんと孝一に恋して本気でドラマをしてる人もいるんだ…と気付かされたようだった。
そんな自分との対比の中で、緒花は自分の不甲斐なさ、自分の気持ちばっか抱えるままに他人の気持ちは無下にしてきていたことを自覚する。そんな緒花の新たな一歩は、自分のやりたいようにがむしゃらにやることだけじゃなくて、やるべきことに懸命に食らいついていくということなのかもしれないように見えていた。だから、今回は孝一は連れて行かないし、母の事情にも理解を示したんだと思う。
とはいえ、母・皐月にも緒花のがむしゃらな頑張りは伝わっていた。皐月にしてみれば、今の緒花はかつて女将の母に反抗していた頃の自分そっくり。だから、そんな緒花の気持ちも買って、喜翆荘に行くことにした。緒花の頑張りは確かにお母さんにも伝わっていたし、今は曖昧な胸中かもしれないけど、鈍くとも確かに輝いていた。
第十三話「四十万の女 〜傷心MIX〜」
遂に喜翆荘に来訪、いや来襲してきた皐月は、過ぎるくらいに的確な口出しをしてきて、良くもあるけど厄介な客でもあった。
しかし、女将に言わせてみれば、そんな皐月も立派な客であることに変わりはない。皐月がプロな客ならば、女将もプロとして応対する。そのために、女将も皐月のことをよく知る緒花に彼女のことを任せたようだった。
とはいえども、そんな三人は血の繋がった家族であることもまた変わらず。祖母と母と子で語らう中で、緒花は一つの決意を口にした。それは、「孝ちゃんにフラれてしまって……。だけどもう孝ちゃんの日常を振り回したくないから、もう手も出せないし、私の日常は孝ちゃんのいる東京じゃなくて、この喜翆荘」ということ。
そして、緒花は孝ちゃんへの想いを断ち切って、新たなスタートを切ったように思えるものだった。「私の輝く場所は、この仕事場でもあり、家族の居場所でもある喜翆荘」と再確認することで、もう迷わない!と胸に決めたように見えていた。そして、「そんな恋を捨てて、仕事に生きよう」という女の生き様はほろ苦いけれど、それだけ強く見えるものでもあって、なぜだか涙を掻き立てられてしまった。
第十四話「これが私の生きる道」
やって来たのは、修学旅行!にも関わらず、仲居として勉強熱心な緒花には、彼女の決意が現れていた。
だけど、いざ修学旅行先の旅館へ行ってみると、経営!経営!ばかりで喜翆荘のようなおもてなしの心はあまり感じられず…。そして、流れの中で、ふくやの結名は、私は「旅館の仕事は大変だし、好きじゃないとできない。だから、旅館は私のやりたいことの中にはないの」と言う。
色んな意味で緒花の輝きたい!とのギャップを感じさせられるようだったけれど、結名の「本気になれないなら手を出さない」というのも、一つの正しい信念なようにも思えるものだった。
第十五話「マメ、のち、晴れ」
「旅館の仕事なんて大変なだけだしー」という結名と、自分たちが泊まる旅館を手伝わずにはいられない緒花は対照的に映っていた。
でも、そんな緒花の姿は本気だから、他の人たちにも伝わることがあったのだと思う。それは、最初は乗り気じゃなかった民子や菜子に伝わって…、そして果てにはクラスメイトたちも助けに来てくれた。
すると、結名の中にも変わるものがあった。いざ自分も風呂掃除の手伝いをやってみると、もちろん手に豆ができるくらいに大変だけど、楽しさもあった。緒花の本気のおかげで、結名も本気になることができて、だからこそ旅館の仕事の辛いだけじゃない楽しい一面を掴めたのだと思う。
まずは何事もやってみなくちゃわからない、そんな緒花の初心を結名を通して改めて実感できるようだった。
第十六話「あの空、この空」
湯乃鷺に舞い込んできたのは、この温泉街で映画の撮影が行われるという話。しかも、メインの舞台は喜翆荘だという。
若旦那が今回の話をリードするわけで、すると当然女将にもお伺いを立てるのだが、いつもならこういう話をビシッと切り捨てる女将も二つ返事で快諾。喜翆荘のみんなもどこか浮かれ気味で、なんだか若旦那も妙に頼もしく見えていた。
どこか上手すぎる話に不安に思うところもないわけではない。しかし、若旦那の大学の映研の頃の夢や憧れも込められた今回の映画の話なだけに、いつもの小手先ではなく、若旦那もこの映画に本気で懸けているようだった。だから、良くも悪くも何かが起きるそんな予感は確かなもののように思えた。
第十七話「プール・オン・ザ・ヒル」
皐月からの電話は「あの映画の話、怪しいから受けちゃダメ!」というものだった。それを受けた女将は驚くことなく、むしろそんなもんだと分かっていたようだったけれど、喜翆荘を継ぐ若旦那・縁に任せたことだと答えは変わらなかった。
そして、案の定に映画のプロジェクトの破綻が告げられて、喜翆荘からの出資金も持ち逃げされてしまい。しかし、若旦那はそれでも後悔してないと胸を張り、女将もいつもと違って「今日は母さんでいいよ」と若旦那を労るようだった。
きっと、それは若旦那が本気だったから。結果としては勢いよく空回りしてしまったけれど、この経験を踏んだ若旦那は喜翆荘を継ぎゆく者として成長できた。チャレンジの結果は意図したようにはならなかったけれど、意図しない成果も得られた。努力は決して無駄にはならないと、そんなことを物語っているようだった。
第十八話「人魚姫と貝殻ブラ」
喜翆荘や外では口下手で照れ屋な菜子だけど、家では実は甲斐甲斐しく世話を焼くような明るい子で、それこそが自分らしい菜子の姿。だから、そんなギャップに菜子は自分で納得できずにいて、余計に自信のなさを募らせてしまっていた。
そして、どんなに変わろうとしても変われない自分に、菜子は女将からの給料アップという評価も自分の不甲斐なさの裏返しと捉えてしまっていた。そんな菜子はもう、自分らしさを求めるあまりに、逆に自分らしさを失ってしまっているようだった。
だから、女将の一言が菜子に響いたのだと思う。「仕事にはもっと頑張りなさいと言うために給料アップをする余裕なんてない。菜子らしい気遣いを認めているんだ」という女将の言葉は、菜子に自分らしさを改めて気づかせるものだったように聞こえていた。
それは、決して自分の家で見せるような菜子らしさとは違うけれど、喜翆荘での菜子らしさというのも確かに自分らしさ。そうして自分に自信を持つことができた後の菜子は、今まで秘められていた気遣いの魅力も、可愛さの魅力もいっそう輝き出しそうに見えていた。
第十九話「どろどろオムライス」
来たる文化祭!緒花と民子のクラスは姫カフェをやることに。そして、カフェの料理班はみんなの期待を受けて、民子がリーダーとなっていた。
しかし、なんだか上手く噛み合わない料理班の打ち合わせ。民子は仕事と同じで本気で美味しい料理を作りたいという中で、学校の設備でオムライスを作りたいという要望は認められなかった。
だけど、そんな提案をしたクラスメイトにも恋心に絡んだという譲れない事情がある。でも、民子はそんなクラスメイトに「仕事と恋愛を混同するなんて最低!」と言ってしまった。自分だって徹さんが来るからとやる気を出していたにも関わらず…。
そんな民子の一生懸命は、確かに頑張ってるかもしれないけど、独りよがりの中途半端なものにも思えるようだった。そんな民子のプロ意識は、高校生らしくもなかったけれど、かといって大人というわけでもなかった。
第二十話「愛・香林祭」
一人で文化祭の料理の準備をしようとする民子は、もう完全に意地を張ってしまっていた。ところが、緒花たちもやってくると、なんだかんだと揉め事の発端であるオムライスをお昼に作ることに…。
そして、緒花たちみんながアイディアを出して作ったオムライスを食べてみると、民子の舌にも美味しい味。すると、それなら何とか教室の設備でも美味しくオムライスを作ってやろう!と途端に民子もやる気も出したようだった。そして、そんな民子の姿は、不可能を可能にするまさに彼女の目指すプロの料理人の姿に見えていた。
そして、これらの文化祭を巡るクラスメイトとの衝突と仲直り、恋愛、将来の夢はまさに青春の光る1ページを刻んでいた。
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