「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「花咲くいろは」─輝く私になりたいの!─ 感想と考察 1~10話
『花咲くいろは』は、ヒューマンドラマアニメの全てをやり切ったような作品だと思う。笑いあり涙あり、萌えありお色気もあり、恋愛のすったもんだがあれば、家族とのごたごたもあるし、夢も挫折も成長もある。
劇場版「Home Sweet Home」では「人生」という言葉がキーワード的に使われるが、まさに『花咲くいろは』は「人生とは…」というものを描く作品だったという印象が強く残った。
第一話「十六歳、春、まだつぼみ」
松前緒花は、今の自分とは違った素敵な自分に変わりたいと願うけど、普段は現実的な考えをしてばかりの少女。
だけど、突然の母親の夜逃げに巻き込まれて、自分も一緒に!とドラマチックな展開を期待していたら、自分は祖母の旅館・喜翆荘で暮らすことに。だけど、そこには小ぢんまりとした等身大のものだけど、確かに何かが変わりそうな青春のストーリーの幕開けを感じるようだった。
しかし、喜翆荘に着いてみれば、おばあちゃんは自分をここでは女将と呼べと言い、緒花のことも可愛い孫とは程遠い雑用扱い。それは、緒花が「あんなに憧れていたドラマチックは、ちょっと寂しくて、カビっぽい臭いがした」と言うように、ちょっと想像していた以上にリアルで不条理な新しい生活で、若干引き気味にもなるくらいのものだった。
だけど、仄かな期待とはまるで正反対の現実だからこそ、そこに湧き上がる緒花の反骨心と悔しさはドラマチックなくらいに鮮烈なんだと思う。誰かに与えられたドラマチックをぬくぬくしたとこから願うのではなく、女将に引っ叩かれながらも自ら掴むドラマチックこそが本物の自分が変わるための青春なように感じられた。そして、この物語はそれを描くためのものになっていく予感がしていた。
第二話「復讐するは、まかないにあり」
悔しいからとひたすらにがむしゃらに仕事を覚えようとする緒花。だけど、なんだか空回りしてばかりで、いまいち旅館の中で上手く馴染めない。
そんな中で、ふと緒花は「本当は私、何したいんだろ」と自問に至る。そして、それは緒花の新しい自分に変わりたいという思い、ドラマチックへの憧れという初心に立ち帰ることでもあった。だから、ここに緒花の青春の一歩があるような予感がしてくるようだった。
その末に、緒花が出した答えは、他人を信じない自分を辞めること。そして、民子と菜子に突っかかるようにして、あなたを知りたいと踏み込んでみた。
そうやって、緒花は一つ新しい自分へと変わることができ、ささやかだけど確かな青春の第1ページを刻むことができた。それに、青春というのは一人だけで戦うものじゃなくて、友達や仲間が付き物。だから、これから緒花が青春の中で新しい自分へと生まれ変わっていくドラマチックのためにも、人と繋がり合うってステップは最初の一歩として相応しいものに感じられるものだった。
第五話「涙の板前慕情」
本気な民子と本気になれない緒花の対比と、そこからの変化が印象的なエピソードだった。
今回、旅館に起こった事件は板前の徹さんが喜翆荘から消えたということ。緒花や民子たちはふくや旅館からの引き抜きだ!と慌てふためくけれど、特に民子はただならない様子だった。
そして、それは民子が徹さんに抱えて想いのせいだった。かつて板前修行がしたいと押し掛けた民子を、喜翆荘で働かせてくれるよう取り計らってくれたのがその徹さんで。だから、民子は本気の恩義も好意も感じていたし、それ故に実力が認められて引き抜かれたことも本心とは裏腹に受け入れようとしていた。
そこで、そんな民子を見ていて、いても立ってもいられなくなってたのが緒花だった。民子の本気で悩んで恋してという姿は、今の緒花にはないものとして対比されていた。でも、だからこそ緒花は民子みたいに自分も本気になりたくて、まずは民子の想いを本気で応援することにしたんだと思う。
そして、民子が徹さんの引き抜きを止められない葛藤とは逆に、緒花は民子の恋心のために徹さんを取り戻そうとふくや旅館に押し掛けた。そこでは、きっと敢えて民子の想いと反対の行動をするというのが、緒花なりの本気の頑張りの示し方でもあったようにも見えるものだった。もし緒花も民子に合わせていたら、民子に緒花の本気は伝わらなかったと思うし、実際に緒花が自分なりの芯を貫いたからこそ、民子も徹さんも緒花のことを認めてくれる結末だったのだと思う。
第六話「Nothing Venture Nothing Win」
喜翆荘にやって来たのは、なんだか厄介そうな経営コンサルタントさん。だけど、彼女の「挑戦」を叫ぶ姿に、緒花はなんだかいいなと思うところもあるようで。
だけど、コンサルタントの彼女が提案と言いつつ押し付けてきたチャイナドレスの仲居は当然のごとく空回り。そして、それは変わりたい!挑戦したい!という緒花に挑戦はいつも成功するわけじゃないという現実を突きつけるもののように見えていた。
そんな中、新たなテコ入れとして、今度の緒花と菜子は喜翆荘に眠っていたメイド風の着物を着ることに。そして、それは意外にも好評であると同時に、その着物はかつて女将さんが「新たな挑戦」として取り入れたものだったと緒花は知る。
そこで、きっと緒花には、嫌味ったらしい女将もかつては今の自分のような時があったと思えて、それがたとえ上手くいかなくても挑戦してみてもいいかもという力として感じることができたのだと思う。そして、そこには女将が挑戦するなら私も!という緒花らしい反骨心もあったように見えていた。
第七話「喜翆戦線異状なし」
もう若くもなければ、夢も希望もない。それが巴さんであり、仲居見習いの緒花や菜子の若さと比べると、ますます自分の先暗さが際立つ。その結果が、実家からのお見合いの誘いにつけて喜翆荘を辞めようかとさえ思案する姿に現れていたように見えていた。
ところが、そんな中で厄介サバゲー客が喜翆荘を訪れ、緒花と菜子が振り回される事態に。そこで、巴はどうせ辞めるなら若い二人のためにもと、厄介客をとっちめるヤケクソに打って出る。
と思いきや、巴の嫌がらせはなぜだか厄介客にウケてしまって…。さらにその上、緒花と菜子にとっては、そんなヤケクソの巴さんのことが憧れるくらいの輝きを放っているように見えていた。だから、実のところでは、巴さんのヤケクソもただのヤケクソではなくて、若くないなりに最後に一花咲かせてやろうというヤケクソだったのだと思うのだ。
そして、とっちめるにしてもヤケクソに本気だったからこそ、不思議な化学反応でお客さんに喜んでもらえた。さらに、それだから、同時に巴さんの中でも、まだ喜翆荘で頑張りたい理由も見つけることができたのだと思う。そして、そんな巴さんを見ていると、てんでめちゃくちゃなことでも、何かやるなら本気でやらなくちゃという体当たりな元気を貰えるようだった。
第八話「走り出す」
珍しくたくさんのお客さんの予約が入った喜翆荘。しかし、喜ぶ間もなくスタッフ不足でパンクしそうになってしまうし、そんな時に限って女将は倒れてしまって。
そんな中で、喜翆荘に残されたスタッフたちは旅館雑誌の覆面記者が来客してるかもしれないと言う話題で持ち切り。女将の不在にやって来た経営コンサルタントの崇子は、そこ覆面記者と思しき客に特別豪勢なおもてなしをしろ!と言い出し、喜翆荘はてんやわんやだった。
そんな雰囲気に流されてか、緒花もどこかふわふわした仕事ぶりで、自分が何をするべきか迷っているようだった。だけど、そんな時だからこそ緒花は道しるべを求めて、今回もまた「輝き」を追いかけることにしたのだと思う。
そして、緒花は崇子の指示する不公平なおもてなしに「そんなの女将が怒る!」と言い放ったと思えば、すぐさまパンク寸前の厨房を回すために街へ板前の徹さんを呼びに飛び出した。
そこに見えるのは、喜翆荘の今と同じくらいにてんやわんやな緒花の頑張りだけど、「いつも厳しい女将がいない今こそ、本気になれなきゃ輝くこともできない!」という彼女の芯の強さを感じられるようでもあった。
第九話「喜翆荘の一番長い日」
全然徹さんが見つからない〜〜〜〜!!!
とにかく焦る緒花だったけれど、そんな時に孝一が電話をかけてくる。そして、彼が電話口で語ったのは、「緒花がそれが一番だって信じたことはいつも何とかなってきた」という勇気をくれる言葉。それに力を貰った緒花は、挫けかけていたとこから復活して、遂に徹さんを見つけられた。
そんなこんなでもうヘロヘロな緒花。それは徹さんの目にも明らかで、緒花の上手くいかないかもだけど、それでもひたむきで向こう見ずながんばりは徹さんの心も動かすものだった。だから、「もし徹さんを連れてこれても、上手くいかないかも…」という緒花の零した呟きへの答えが、「必ず上手くいかしてやる!」だったのだと思う。
がむしゃらな頑張れば何か起こせるけれど、何もがむしゃらに頑張ったことだけが結果に結びつくわけではない。そのひたむきさを見た人が、自分も!と力を貸してくれるから、がむしゃらな頑張りはいつも実を結ぶのだと教えてくれる緒花と徹さん、そして孝一だった。
そして、何とか女将のいない一日を乗り切って、無事に女将が喜翆荘に帰ってきた時は、なんだかみんな一回り成長できたような気がして、胸を熱くさせられてしまった。
第十話「微熱」
ここまでいっぱい頑張ってきた緒花だけど、遂に頑張りすぎで熱に倒れてしまって…。
すると、みんなも緒花ちゃんがいない分、そして緒花ちゃんが今まで頑張ってくれていた分に習おうと、喜翆荘全体がいっそう頑張ろうと意気込む雰囲気になっていた。
しかし、それを見た緒花は逆に自分ももっと頑張らなくちゃとしてしまって、見兼ねた菜子から「緒花ちゃんがいなくてもちゃんとやれるから」と言われてしまう。もちろん、菜子の言葉は緒花を安心させたいがためのものだけど、ひたすら頑張ることで喜翆荘の中での居場所を見つけられた緒花にとっては、自分がまるでいらない子みたいに思えてしまっていた。
そんな風に落ち込んで泣き出す緒花だけど、民子は不器用ながらも「あんたがいなきゃダメなの!」と言ってくれて、菜子も「それは違くて、早く帰ってきてっていうか」と必死に本心を伝えようとする。そのうちに緒花は安心したのか、再びに眠りに落ちてしまっていた。
そんな緒花とみんなを見ていると、倒れた緒花にみんなが「大丈夫だよ」と見舞いに来てくれることこそが、それまでの緒花の頑張りがみんなに響いていたことの証明だったように思う。それに、緒花がいなくても大丈夫というのは、緒花の日頃の頑張りがみんなに力をくれていたから、たまには緒花本人がいなくても大丈夫というようにも受け止められるようだった。
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