「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ブルージャイアント」─存在が光るから、その音色に惹かれる─ 感想と考察
ジャズの音色とジャズにかける思い。そんな具体的な形を持たないものが、はっきりと目に見える程の爆発を描き出す。そんな物語がこのアニメだった。
信念と存在が宿るサックス
貫く自分の思いと信念、そして光る存在感と人を虜にする魅力。解き放たれる覇気や気力、生命力といった強さ。それこそが宮本大のサックスが奏でているもののように感じた。
溢れんばかりの自分自身を信じる力が大にはある。だから、彼の無骨な音色はこんなにも人を惹き付けるのだ。人が聴きたい音ではなく、聴かせたい音を奏でる。そんなサックスはもはや大という存在や生き様そのもののように映る。だから、こんなにも圧倒的で、全てをポジティブ捉えるような彼の力強さがそのままに溢れているのだ。
そして、彼の荒々しい音色も限界を超えて練習し続けた彼の手指そのもののように聴こえるではないか。初めて大のサックスを聴いた時、まさに雪祈はその音だけで彼の血の滲むような努力を感じ取って、その覚悟の差に悔し泣きをした。
一度死んだ天才は、自分自身に生まれ変わる
それが一つの伏線だったのかもしれない。雪祈が良い音を奏でるのではなく、勝つための演奏にこだわる理由。それは自分自身を演奏で解き放つ自信のなさや決してスマートではない全力さの欠如。
選ばれしトッププレイヤーになるには数少ないチャンスを掴み続けるしかない。だから、そうやってどこか守りに入ってしまう気持ちも分かる。だけど、それでは光れないし、惹かれない。
そんな彼は夢の舞台・ソーブルーのオーナーに全否定されて、初めてそのことを思い知った。そして、畳み掛ける交通事故。文字通り、雪祈は壁にぶつかってバラバラになった。
もう小綺麗に飾り立てる自分もない。そこに残ったのはただただ強い思いだけ。血のように夢と情熱が駆け巡るその指が弾く鍵盤は、テクニックで小賢しく騙し魅せるようなものではない、本物の彼だけの音色を奏でる。だから、こんなにも感動的で、熱い感情が目から溢れるような演奏になるのだ。
魅せられた凡人はバカになれる
玉田のドラムだってそうだ。彼も大のサックスに魅せられて、居ても立っても居られない衝動を呼び起こさせられた。数日もしないうちに大金叩いてドラムセットを買う程の覚悟をたちまちさせたのだ。
そして、それだけの強さがあるから玉田もまた挫けない。大と雪祈という天才と素人が並び立つことで圧倒的な差を痛感しても、それだけの思いの強さがあるから、彼はまた立ち上がる。むしろその思いの分だけ悔しくて苦しいからこそ、泥臭く愚かな程にがむしゃらになれる。
だけど、その姿はあまりにも美しいのだ。彼のことを見るのも痛いような初舞台からずっーと追いかけてきた老人は、そんな泥臭くて一生懸命な姿に魅せられていた。
己自身を信じるサックス
私たちが魅せられていたのは、彼のサックス以上に、その金管を通して吹き出された揺るぎない自分自身を貫く生き様だった。たとえ無謀でも、いや無謀だからこそ、まず自分が自分自身を信じなければならない。それこそが世界一のプレイヤーになる道なのだ。
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