「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「16bitセンセーション」─コノハとエロゲが教えてくれた夢の意味─ 感想と考察 1~7話
第1話「タイムリープしちゃったぁ~!?」
「夢を見たい!!」
まず示されたのは、そんな物語のテーマだった。
2020年、斜陽のエロゲ会社で働くコノハの前には夢なんて欠片もなく、ただあるのは明日明後日という現実のみ。そんな日常はひたすらにつまらなくて、未来もなく、夢を見る余裕すらないようだった。
だからこそ、コノハは「夢を見たい!」のだと思う。夢を叶える以前に、まず夢を見たい。なんだかあまりにも夢のハードルが低いようにも思えるけれど、原点に立ち返れば、夢を叶えるにはまず夢を見なくちゃ始まらない。それに現実問題として、今のどこか先行きの暗さすら感じる時代に、大口叩いて夢を語れる人がどれだけいるのだろうか。
そんな今だからこそ、「夢を見たい!」という願いは切実であり、力を持ったメッセージになるようにも思う。そして、そんな暗い今を変えてやりたい!という思いもあるからこそ、過去から今を変えるために、コノハは1992年にタイムリープしてきたのだと思う。
第2話「いっしょに美少女ゲーム作ろ!」
美少女の未来を熱く語るコノハ。そんなコノハは世界に美少女が溢れる2020年の未来を知ってるからこそ、1992年の今それ夢見れば絶対叶うんだと熱く言い張れる。それが、「美少女ゲームなんかダメだ」と言う守のことも、コノハの美少女の夢に乗ってやろうじゃないかという兆しを見せているようだった。
とはいえ、コノハは実際の未来を知ってるというズルがあるように思えるかもしれない。だけど、過去にタイムリープしてしまった以上、その未来ももはや必然ではないかもしれない。だから、この文脈においてコノハの語る美少女に溢れる未来というのは、必然の未来ではなく、絶対に叶えてみせるという強い意思に基づいた夢のビジョンとして捉える方が正しいようにも思う。
第4話「いいんだよ!」
98を愛する守にとって、Windowsに移行することは自分の夢を捨てるようなことなのかもしれない。彼がコノハに「タイムトラベラーは歴史を変えちゃいけない、だから何もするな」と言い放ったのも、98からWindowsへと移り変わる時代の流れに抗おうとする心の表れのようにも見えるものだった。
そんな時に、守はコノハの持っていたタブレットを見て、彼女が未来からタイムリープしてきたことが本当なのだと信じざるを得なくなった。そして、それは同時に守にとって未来という98のなくなった世界を受け入れることにも繋がっていた。
だけど、そんな守の姿を見て、コノハは黙っていれられなかった。それに、「守くんは98が大好きなんだから、98のない未来を変えちゃえばいいんだよ!!」という守に向けた言葉は、まさにコノハの大事にしている「夢を諦めたくない!」という信念を示していた。
だから、守もその言葉に従って、Windowsと98の両方で新作ゲームを作ることにしたし、同時にコノハのエロゲ愛というのも彼に伝わったのだと思う。そして、そんなコノハと守を見ていると、「明るく開けているはずの未来なんだから、夢を見なくてどうする!」というメッセージを印象付けられるものだった。
第5話「2度あったことは3度ある!」
今度は1999年の秋葉原にやって来たコノハ。3年が経ってアルコールソフトは大きくなり、エロゲ界の未来も明るいものだった。
だけど、コノハは徐々に自分のせいで未来が変わってしまっていることに気付き始めていて怖気づく。「アルコールソフトのみんなに会いたい!」とこの時代にやって来たはいいものの、一番の目的である「美少女ゲームを作りたい」ということには及び腰。
3年前にコノハの「未来を変えてもいいんだよ!」という言葉に背中を押された守にとって、今のコノハはらしくない。だから、守は暗に「自分の好きなゲームを作れよ」と言うけれど、コノハはゲーム開発から逃げ出すように雑用係ばかりを引き受けていた。
「夢を叶えたい!」ということ以上に「夢を見たい!」という思いが巡り巡ってタイムリープをしてきたコノハ。だけど、いざその夢を目の前にすると、夢が憧れから現実のものとなったことで、どこか素直に飛び込むことができないアンビバレントな感情というのも生じてしまうものなのかもしれないと、迷いを抱えるコノハにどこか共感できるようでもあった。
第6話「コノハを信じて!」
コンシューマーから、はたまたTVアニメ化も!?とエロゲの夢は広がるばかり。1996年以来に再開した冬夜が、コノハの影響で今はエロゲのメイン原画家になっていたというのも、まさにそんな夢の広がりを示しているようだった。だった……。
だけど、そんな彼女がちやほやされて、どこかオタサーの姫のような純粋な一面を失ってしまっていたことが暗示していたようにして、全てがひっくり返されてしまう。
社長がコンシューマーのプロデューサーの市ヶ谷に投資をしていたという事実が明らかになり、さらにその市ヶ谷は投資詐欺で逮捕という報道。社長はアルコールソフトと共にまんまと10億円を騙し取られてしまっていた…。
それに、奪われたのはお金だけじゃなかった。みんなの走り出していた夢も、唐突に断ち切られてしまった。それでもまだ現実の前に夢が敗れてしまうだけなら良かった。かおりさんやメイ子が「夢だったコンシューマー化に舞い上がってしまってたことが甘かったのかもしれない…」とここまでの夢の上り調子すら後悔で上書きしそうになっている姿を見ていると、アルコールソフトのみんなは再び夢を見ることすらできなくなってしまったのかもしれないという気すらしていた。それは夢が打ち砕かれるよりも遥かに悲劇的で、夢に後悔なんてあまりにも夢がなかった。
だけど、そんな時だからこそ、コノハは「コノハの原画でゲームを作ろうよ!」と守に訴える。守は「現実的に考えて、エロゲで10億なんて無理だ」と返すけれど、それでもコノハは「コノハの力で過去を変えるなら今なんだよ!」「美少女の力はそんなもんじゃない!」と語気を強める。
そこには、コノハが自分自身を信じる力はもちろん、守くんや他のアルコールソフトのみんなの力を信じているという思いが現れているように聞こえていた。そして、だからこそ、守くんもそれに応えるようにして、「お前の好きなようにやってみろよ!こっちは何だって叶えてみせるさ!」と言い切ったのだと思う。
第7話「雨降って地固まる」
そして、「10億稼ぐゲーム」に挑む決心をしたコノハだけど、まずはみんなを巻き込むところから始める必要があった。
そして、コノハは自身のイラストをみんなに披露。1999年の世界にとっては圧巻な出来にみんなはひと目でコノハのイラストに魅了されて、「自分の絵でゲームを作りたいんです!!」というコノハの宣言にも勢い付く。それと同時に200枚ものレイヤー描写を可能にするオクタコアの改造PCを守くんが完成させた。遂にコノハと守の夢がその第一歩を踏み出した瞬間だった。
だけど、そんなコノハのイラストの技量を本物だと認めたからこそ、カオルさんは「今回はいなくならないよね」と念を押す。そして、コノハは「色んなゲームを作りたいんです、だからいなくなりません!!」と宣言。この言葉に何の根拠もないけれど、遂にメイン原画マンに抜擢されて、夢の一つに手がかかったコノハにとって、この世界は真の意味で自分の居場所になっていたように思う。だから、それこそが今度こそはこの世界に居続けるというコノハの根拠なんだと思えるものだった。
そして、いざゲーム開発に取り組むアルコールソフトのみんな。コノハも張り切って10人近くものヒロインを提案するほどの意気込み。とはいえ、シナリオライターのキョンシーからは「これじゃシナリオが長くなりすぎるぞ?」と心配が……。
それでも、コノハは己の美少女の力を信じる心を貫く。「この世界にいつまでもいたいって思えるシナリオなら、絶対に飽きられません!!」と言い切る。そんな発言はまさにこの10億稼ぐゲームが「ムリ!!」から「できる!!」に変わゆく過程を象徴する場面のように思えた。
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