「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ワールドダイスター」─ここなと静香の絆、その裏側に見える意味─感想と考察
ワールドダイスターの物語
この『ワールドダイスター』は、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」や「かげきしょうじょ!!」と同じように、舞台演劇に熱を注ぐ少女たちの物語である。
だが、『ワールドダイスター』は「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のほどに高度なファンタジーや抽象的な世界観ではなく、かといって「かげきしょうじょ!!」のように具体的な青春の群像劇をリアリスティックを突き詰めたものでもない。
この『ワールドダイスター』では、舞台を演じる少女たちが「センス」と呼ばれる特別な才能を用いながら、観客たちを物語へと惹き込んでいく。そして、そんな少女たちがいつの日か「ワールドダイスター」と呼ばれる世界に名を轟かす舞台女優となることを目指す中で、彼女たちが舞台上や舞台上で成長していく姿を映し出す。そんな風に、少し不思議な世界観でありながらも、徐々に見えてくる少女たちの成長の変化の中に、彼女たちが内に秘める実像を描き出した物語である。
そして、この物語の中心で描かれる二人の主人公・ここなと、第二の主人公である静香の絆が、単に儚げという感傷的な感動を誘うだけではなく、夢へ走り出す原動力にもなっているという前向きな形で胸を打つ感動も誘ってくる点が、何とも憎いくらいの魅力として映っていた。
第1話「夢見る少女」
ここなと静香の物語
この物語の主人公・ここなは「ワールドダイスター」になることを夢見て、演劇の舞台を目指す少女。だけど、そんなここなは、自分に与えられた役ではなくて、彼女の中にだけ存在する静香という少女をなぞるように演じている。これが何を意味しているのか、なぜここなはそうするのか…。今思えば、その秘密を解き明かすような物語だったと振り返ることができる。
でも、一方で、その静香の存在はここなが「明日の自分を信じられる人」になるための自信と力をくれていたようにも見えていたことは確かだった。そんな風に願うからこそ透けて見えるここなの自信のなさだけど、それを静香が勇気づけているようだった。
第3話「初めての舞台」
やっと掴んだ舞台デビューは、ひと時の夢か、確かな現実か
ここなたちが臨むのは、竹取物語の舞台。その役作りの中で、ここなが発したのが「静香ちゃんと一緒に舞台に立てたら楽しいんだろうな」という言葉。そして、竹取物語の練習で八恵からここなに投げかけられた「役者を救えるのは、同じ舞台に立つ役者だけなのですから」という言葉。この二つの台詞には、なんとなく、ここなと静香の間にある超えられない壁を思わせていた。すなわち、静香はここなの隣にいるように見えているけれど、でもそこにいるはずのない静香には、ここなを真の意味で助けることができないということを暗示しているようにも思えた。
しかし、それに反して、本番の舞台でカトリナのミスをカバーするために静香は舞台上に現れ、ここな以外の目にも見えるようになっていた。そして、そんな静香は確かにここなを助けるための振る舞いのように見えていた、しかし、それでもかぐや姫役のカトリナが天に連れて行かれ、侍女役のここなと離れ離れになってしまうという舞台上の展開は、どこかここなと静香のこのままではいつか別々になってしまいそうな関係であることを表しているようにも見えていた。
第4話「いまはむかし」
私を導いて、一緒に歩いてくれる星
明かされた静香という存在の真実。それは、センスがないとオーディションに落ちてばかりの頃のここなの前に現れたというのが静香であり、彼女はここなの「センス」であるという話。そんな静香のことを、ここなは「私が欲しかったモノを全部持ってる私」だと言い表していた。
思うに、きっと当時のここなは受けるオーディション全てで自分を否定されて、遂には最後の頼りの自分自身ですらも自分の可能性を疑ってしまいそうになっていた。だけど、それでも、自分だけは自分の演技を認めてあげたくて、舞台を諦めたくないという気持ちが残っていて、その思いがここな自身に自信を与えるために静香を生み出したのだと思う。
だから、ここなが目指すワールドダイスター、その輝きに導いてくれる星として、静香がいるのかもしれない。そして、この回想を通じて、静香の存在は決してここなの後ろ向きの気持ちだけではなくて、前に進むための原動力でもあるということに気付かされた。
第6話「誰も私を見ていない」
現実から目を背けた瞳に映るのは、ただの憧れ
次の舞台のアラビアンナイトで、主役を演じることになったここな。だけど、本番の舞台でここなが感じたのは、上手くできたという手応えと一致しない現実だった。きっとそれは、ここなは主役であるにも関わらず、ヒロイン役の八恵を引き立てるための演技をしてしまっているということ。そして、もう一方では、憧れの八恵と同じ舞台に立てていることがすごく楽しい気持ちという、主役としてちぐはぐなここなを映しているように見えていた。
それは結局、ここなは演者としてではなく、観客としての憧れしか持てていなかったということを示しているように思う。だから、ここなは主役なのに一歩引いた無難な演技に留まってしまっていて、同じ舞台の上に立つ他の役者をあろうことか羨望の眼差しでしか捉えることができない。言ってみれば、役者のくせに観客気分なのだと思う。舞台の最中、ここながふと観客席を見渡した時に、彼女は「誰も私を見ていない」と固まってしまっていたけれど、それはまさしく彼女が役者になりきれていないことを象徴する瞬間として見えていた。
そして、ここなにそんな気の迷いをもたらしたのは、主役としての自信のなさを見て見ぬフリをする逃げの心だったように思う。役者として自信がないから、ここなは自分が目指すべき八恵という役者をただ憧れの眼差しで見てしまう。さらに、いざ観客に注目されていない気付いた時にも、ここなは役者としてどうしていいのかが分からなくなってしまうのだと思う。
その瞳に映すのは、夢の輝き
でも、そんな時だからこそ、カトリナと静香が教えてくれたように、ここなが本当に目指すべき憧れは「ワールドダイスター」であると思い出さなければいけない。ここなの本当の目標を改めて自分に問い直す必要があったのだ。
そして、そのアラビアンナイトの舞台の最中、ここなの心の現れである静香の存在が消えてしまっていたが、それもきっとここなが自分の心を見失っていたことを示していたのだと思う。でも、再びここなが自分の「ワールドダイスター」の夢を思い出すと、ちゃんとその写しである静香も戻って来た。この描写は、ここなの自信と夢が静香と共にあることを、ますます強く表していたように見えていた。
第10話「それぞれの幻影」
光の中に影は消えていく
来たる舞台は、オペラ座の怪人。主役のファントムはオーディションで選ばれることになり、もちろんここなもそこに名乗りを上げた。そして、オーディションに向けて、ここなは練習に励んでいた。でも、その中で、静香が「役作り、一人でできるようになったんだ」とここなに語りかけた言葉と、自分自身もファントムを演じたいという衝動を沸々と湧き上がらせる静香の姿は、もう彼女はここなの影に収まらない存在になりつつあるように見えていた。
今までずっとここなが役者として成長することで、静香の幻のような存在も確かなものに変わってきたはずだった。だけど、それはそのここなが自信を付けていくことで、静香が背中を押してあげる必要がなくなりつつあるように見えていた。また、一方で、そのここなの役者としての輝きを増していく姿に当てられて、憧れてしまうことで、影である静香が消えてしまいそうにも見えていた。
第11話『私たちの約束』
欲を夢を、しまっておいた思い出の箱
ここなが舞台に立つ原点。それは「ワールドダイスター」になりたいという夢だった。
でも、そんな高すぎる憧れは、夢見るだけでも怖いくらいに眩しい。夢と現実の差、憧れと自分のギャップを自覚せざるを得ないから、夢を口にするだけでも恐怖が付き纏う。だから、ここなはその夢を直視することすらできず、舞台へのエゴや渇望も心の奥底に封じ込めてしまっていたように見えていた。
だけど、それでも願わずにはいられないここなの欲求の具現化が静香だったように思う。そして、その静香はここなの押し殺したエゴと欲望を引き受けて、大事に取っておいてくれた。また、そんな静香の存在が、ここなに対して「舞台に立てない私の分も…」という夢へ進み出すための理由を作ってくれたように見えていた。
あの子の先に夢を追いかける
そんな静香が去ってしまうことに最初は喪失感と孤独に泣き伏せていたここなだったけれど、静香と対話して、自分自身と対話する中で、一つの気付きを得たように思う。それは、今こうして描かれたように、静香はここな自身の「役者としての欲望」であるということ。だから、存在としていなくなってしまっても、静香はここなの中に居続けるし、夢のままな「役者としての欲望」を追いかけることこそが静香の存在証明にもなっていく。
そして、今まで一歩先からここなのことを導いてくれたように、静香はこれからもここなの一歩先で待っているのだ。だから、先に見据えるワールドダイスターを追いかけ続けることが、ここながいつまでも静香と共にいるためにできることになっていくのだと思う。
第12話『きっとふたりで』
この物語には、二人の主役がいる
でも、夢は約束。だから、静香は舞い戻ってきた。
「ワールドダイスターになりたい」という夢を叶える自分の姿を、幼い頃のここなは信じることができなかった。でも、それはそんなここなの背中を押してくれる静香との二人の約束になっていったことで、ここなもその夢を信じられるようになっていった。
だけど、自分はここなの影だからと一歩引いてしまって、その果てに静香は一度は消えてしまった。そんな静香は、まるで「オペラ座の怪人」のファントムのようだった。舞台を盛り上げるだけ盛り上げて、最後に炎の中に消え失せてしまう。
しかし、一方で、静香がここなを導いたように、ファントムもゴーストの歌い手だったクリスティーヌを表舞台へ導いていた。そして、最後に、逆にここなが静香を表舞台に立たせようとしているのと同じように、クリスティーヌもファントムの作曲した歌を舞台で歌っていた。
たとえ最後に離別してしまうとしても、互いに主役の舞台へと導き合うのが「オペラ座の怪人」のファントムとクリスティーヌという二人の主役だった。だから、この物語もここなと静香のW主演でなければいけない。静香も役者の一人として舞台の上に立たなければいけないのだ。
私はあなたの光で、あなたは私の鏡
そして、この瞬間に、ここなの「ワールドダイスター」になりたいという思いと、静香の自分も「舞台に立ちたい」という思いが重なった
だから、もう静香はここなの影ではなくて、ここなの鏡なのだと思う。今のここなに対して、未来の夢として静香がある。ここなの心の奥底を、静香の姿に投影している。そして、ここながまぶしく輝くほどに、静香の存在は今はもう消えてしまうのではなく、よりいっそう強く映し出されるのだ。だから、静香は戻って来たのだと思う。
飽くなき欲望が、少女を舞台へ導く
静香が舞い戻ってきたことには、ファントムと対比したもう一つの理由があったように思う。それは、クリスティーヌのもとに現れなかったファントムの心は満ち足りていたからということ。醜い姿のファントムはクリスティーヌによって、初めて愛されることができて、そこで満足してしまっていたのだ。
しかし、静香は違っていた。彼女の中には「私もワールドダイスターになりたい」という思いが眠っていたのだ。この結末に満足していないからこそ、静香はここなに導かれ、再び舞台に戻ってきたように思う。
そして、ここなと静香は「二人でワールドダイスターになる!!!!」という夢を求めて、新たな舞台へと経ち続けていく。輝くセンスと共に、二人は互いに照らし合いながら、永遠に二人の物語の主役を演じ続けていくのだと思う。
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