「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「あの夏で待ってる」─痛くて美しい青春の恋物語─ 感想と考察
突然始まった不思議なひと夏の刹那な儚さと信州で繰り広げられる青春のひと時の穏やかであり騒がしい日常を、涙の出るほど甘くて酸っぱい恋物語と共に味わう群像劇。
甘酸っぱくて痛々しい夏
何かしたい、何かしなくちゃってこの夏は始まった。
そして、恋が訪れた。
だけど、それは互いにすれ違ってその想いを口にしたくても言い出せない青臭さともどかしさに包まれている。
互いに想いの矢印が向き合うことのない連鎖の中で、あの子の恋路の幸せを願う想いと恋敵を憎む気持ちが心を締め付けて、苦しい…。
好きの気持ちが止まらないのと同時に胸を指す棘も食い込むことを止めない。
傷つきながら走り続ける彼らの青春は瑞々しく美しいけれど、とても痛い。
どんなに茨が縛り付けようとしてもこの想いは爆発して溢れてしまう…。たとえその先でこの想いが報われないと分かっていたとしても。
なぜなら、好きな人ができると人は強くなれるから。
心から「好き」の叫びが溢れた後を追うように溢れてきたのはとめどない涙。
一方通行の好きの矢印で繋がる柑菜と哲郎と美桜の姿はとても痛ましいけれど、儚く美しくもあった。
そして、報われなかった者たちに報われろと押されて想い合えたイチカと海人の二人はとても甘く映った。
史上最高の失恋回がこの夏にあった。
あの夏で待ってる。
だけど、やがて引き裂かれてしまう運命の中でこの幸せは長くは続かなかった。
何かを始めたいと思って幕を開けた喜びや悲しみの詰まったあの夏も終わってしまう。
だけど、それはフィルムの中に残っている。あの夏を過ごしたぼくらはそこにいる。
「死んだ人間は天国じゃなくて誰かの心に旅立って、思い出となって生き続ける。それもいつか消えてしまうけれど、人は忘れないよう何かを残そうとし続ける。」
あの特別な時間が過ぎ去ってしまっても忘れないように残したものがあるし、その続きを描けばいい。 楽しかったことも悲しかったことも大切なもの全部、あの夏で待ってるから。
透き通るように美しい恋
9話の柑菜の「海人君が好き」という叫びと涙、それを慰める哲郎、それを陰から見て泣き伏せる美桜の失恋で繋がり合う3人の図にどうしようもなく報われない青春の恋の真っすぐさとそれ故の痛みに涙が溢れてしまったけれど、とても美しくも見えた。
こんな純粋で綺麗で本当に「好き」しか詰まってない透き通った恋は青春を生きる彼らしか持っていないもので硝子のように鋭くも愛おしかった。
雑感
1話を見た時の感想は良い意味でだけれど、どこかで見たことのあるような夏の出会いと別れの物語の形式を感じさせるものだった。
言うなればあの花とか天体のメソッドのような雰囲気を感じていたけれど、この恋物語というか失恋物語という強いアレンジが効いていてとても良かった。
エピローグの描写も出会いと別れの物語によくある形式だけど、やっぱりそれが一番涙腺に効いてしまう。
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