「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「転生王女と天才令嬢の魔法革命」─認められないのは、彼女が好きだから─ 全話感想と考察
第1話「王女と令嬢の魔法革命」
魔法で空を飛びたいアニス。きっとその魔法への憧れは、王族なのに魔法が使えないからというだけではなく、彼女に眠る前世の記憶に基づいた魔法へのロマンの眼差しなのだと思う。
そして、疎まれ追放されて、頂点から蹴落とされた令嬢のユフィリア。その生真面目さ故に見放され、陥れられた彼女に手を差し伸べたのは、まさか真逆な性格のアニスで。
「私が攫ってあげる」というアニスの誘いの言葉は、ユフィリアを広く解放された世界へ連れて行ってくれる魔法の言葉のように聞こえていた。
第2話「趣味と実益の助手獲得」
真逆なアニスとユフィの二人。それは才能も、性格も、振る舞いも何もかも全て。でも、そんな二人だからこそ、お互いに補い合って導き合うのだと思う。
ユフィのことを「私が全力で幸せにしてみせます」と宣言したアニスだけれど、そこまで言わせた理由はユフィが完璧だったからだと語る。それは一つに、ユフィの才能であるように思う。アニスが心血を注ぐ魔法科学にとって、ユフィはまさにうってつけの人材だった。
もう一つは、その身分の型にはまって、自分の好きなように笑うこともできなかった彼女を笑顔にしてあげたかったから。そうやって、アニスはユフィを窮屈な鳥籠から解き放ってくれた。二人は導かれるべくして、惹かれ合ったように見えていた。
第3話「憧憬と追憶の虹霓魔剣」
ユフィにとって、アニスとは分からない存在であり、ただただ遠い……と感じている。きっとそれは憧れのような不理解で、羨望もできないくらいに羨んでいるのだと思う。
アルガルドに捨てられて、それでもユフィが何も感じないのは、自分がただただ王子の婚約者という役割を演じていただけ。そして、中身が何もないからということを、ユフィは自分でも痛いくらいに分かっていた。
それでもアニスは、そんなユフィを求めてくれた。何もないと感じている自分に、彼女だけは「ユフィはユフィだから、そこにいて欲しい」と言ってくれた、ユフィのことを本当の意味で見つけてくれたのだ。
そんなユフィだけれど、アニスにとっては彼女は憧れ。自分が持っていないものを全て持っていてるのがユフィなのだ。だからこそ、アニスはそんなユフィへの憧れの感情と一緒にいたいという想いを昇華させるために、彼女の綺麗な魔法をもっと輝かせる虹の魔剣を作ったように思う。それに、アルカンシェルの魔剣の虹の意味は、「ユフィは何もないなんてことないよ、私にとってユフィは全部持っているんだよ」というように見えていた。
第4話「姫様と迷子の決意表明」
「ユフィがしたいことをすれば良いじゃん」というアニスの言葉が分からない、それがユフィ。自分は何が欲しいのか、何を望みたいのか分からない。
それでも、アニスは「だったら、ゆっくり一緒に探そう」と言ってくれた。きっとアニスは、ユフィのことをもっと輝かせてあげたくてたまらないのだと思うし、ユフィにとってはそんなアニスこそが眩しくて仕方なかった。
そして、そんなユフィは、「アニスの隣なら、私も役割だけじゃない自分に、アニスのように私らしい私に変われるかもしれない」と感じていたように見えていた。だから、ユフィはそっと寄り添ってくれるアニスの体温を心地よく感じていたのだと思う。
第5話「魔薬と魔剣の魔竜討伐」
魔物のスタンピードと襲い来るドラゴン。そんな強敵にも単騎で挑もうとするアニスは、人を頼ることを知らないのだと思う。だから、せめてできることは、副作用のある魔薬を飲んで強化するといった向こう見ずな戦いだった。
しかし、そんな身を削ったアニスの奮闘も、やはり圧倒的なドラゴンの力にはなすすべもなかった。所詮、アニスは魔法の使えない魔法使いなのだ。箒が無ければ空も飛べないし、自らの身を痛めつけなければ魔法も十分に使えない。それでも、魔法で人を笑顔にしたいという信念のためにアニスは戦わなければならない。
だから、ユフィが立ち上がる。アニスのその思いこそが、一人だったユフィを守ってくれたものだったから。それが、「今度は私が…」とアニス自身とその思いを守るために、ユフィを立ち上がらせた理由として映っていた。
そして、アニスはユフィと共にドラゴンに挑み、打ち倒す。それは、まさにアニスにとっての魔法の杖にユフィがなった瞬間だったように見えていた。
第6話「破談と魅了の真相究明」
婚約破棄の夜の真相を突き止めたアニス。それはレイニに埋め込まれた魅了の魔石が、無意識に周囲の人を惑わせていたということだった。そんな真相に、レイニ自身も被害者の一人であることが否めなかった。そんな中で、アニスはまたしてもレイニの保護も買って出たのだが、既にアニスはそのレイニと因縁のユフィも保護しているわけで…。
とはいえ、そんな見境なく魔法の力で人を助けずにはいられないのが、アニスのアニスらしいとこなのかもしれないと映るようだった。
第7話「開祖と助手の魔学講演」
レイニの件が解決したことで、ユフィはもうアニスの保護の下にいる必然性はなくなっていた。だからこそ、ユフィは今までの惰性でアニスの隣にいるのではなく、改めてアニスとの関係を定めなければいけなくなっていた。
そして当然、ユフィの思いの中にはもうアニスの隣にいること以外の選択肢はなかった。でも、だからこそ、ユフィはアニスの隣にいる理由をはっきりと示さなければならない。
それが、魔法省での講演会だった。魔法の使えないアニスの突拍子もないアイディアを支えるのは、天才魔法使いのユフィだからこそできること。そんなユフィの心はすっかりアニスの色に染め上げられていたように見えていた。
第8話「怪物と凡愚の魔法定義」
アルガルドの内なる願い。それは、魔法によって定義付けられた貴族と平民の身分差が蔓延るこの国を変えたいというものだった。それは、彼が手を組む貴族たちとは意を反するものであり、むしろアニスの描く理想と同じだった。結局、姉弟が共に望むのは、誰もが何にも縛られることのない自由な世界であるように映っていた。
だけど、アルガルドには力がなかった。魔法の素質を除けば、才に溢れる姉・アニスのようなことは彼はできない。だけど、その姉も王位継承権という王族としての責任を放棄した。だからこそ、アルガルドはそれを成さねばならないと決意した。そして、彼が本来否定したいはずの王族の立場、貴族たちや魔法の力に固執しなければいけないように見えていた。
そんなアンビバレントな歪みの中で、アルガルドにとっての魔法は呪いという定義に変質してしまったのだと思う。その結果、アニスとアルガルドは魔剣を交えなければいけなくなってしまった。
でも、だからこそ、アニスはそれを放っておけない。彼女にとっての魔法とは、「明日への祈りとみんなの幸せを願うものでできている」のだから。
結局、アニスにとって、道を間違えたアルガルドもユフィやレイニのように救うべき存在なのかもしれない。彼を王子という立場や呪いと化した魔法から解き放ってあげなければいけないと、彼女は思っているのかもしれないように見えていた。
第9話「姉弟と誰がための王冠」
アニスフィアとアルガルド、二人は同じ夢を見ながらも、互いを想う姉弟の絆のもとに、異なる道を辿ることになってしまったように見えていた。
そもそも、「私は私、他のものにはなれない」と言って我が道を進むアニスも、貴族も平民も魔法の有無で差別されない国を目指すアルガルドも、共に人が何にも縛られずにありのままでいられる世界を望んでいたのだ。
しかし、非凡な姉と凡庸な弟の絆が、それを壊してしまった。幼いある日、魔物からアニスはアルガルドを守ったことが、あらぬ疑念を招き、姉は弟のために王位継承権を放棄した。でも、それはアルガルドから見れば、王の器にふさわしいアニスと比べた自分の劣等感と、そうやって自分の存在がアニスを傷つけてしまう哀しさへと繋がることとなっていた。
そんな運命の裏切りが、果てにこの姉弟の殺し合いに至らしめていたように思う。そして、結局、アルガルドに剣を振るったアニスは、道を踏み外した弟を守ってあげることができなかった。大逆の罪を被ったアルガルドも、魔法のためには危険も顧みない姉を守ってあげることができなかった。
だから、せめてアルガルドにできることとして、「姉上を頼む」というユフィへの言葉だったように思う。そして、アニスにとっても、「なりたいものになれないのは辛いなぁ」と涙を流した弟の分も、彼女のやり方で国を善き方へと導くことが、アルガルドの思いを守ってあげることになっていくのだと思う。
第10話「諦観と激情の王位継承」
アルガルドに代わり王位継承権を継がなければいけなくなったアニス。口では女王の立場に身を捧げなければいけないと語るけれど、余裕を装う表情はあまりにぎこちなくて、本心を押し殺した哀しさを滲ませていた。
そんなアニスの思いに気が付かないはずもないユフィだったけれど、彼女もまた次期女王を支える臣下の立場として、表面を繕うアニスを肯定することしかできずにいた。もとい、そうしなければいけないと信じていたように見えていた。
だけど、そんな二人を受け入れられない人もいた。レイニはユフィに魔学の道具が片付けられたアニスの工房を見せ、「王になったアニス様は大切なものを捨ててしまう」と突きつけて、「王の責務を果たしたアニス様は、幸せに笑ってくれますか?」と問う。
問われたユフィは、臣下として女王・アニスを立てなければという思いと、友としてアニスに王になって欲しくないという思いの狭間、割り切れない葛藤で頬に雫を伝わせていた。でも、だけど、自分らしくあれず幸せに笑えないアニスを想って流す涙に、ユフィ自身も否定できない自分自身の想いに気付いたように見えていた。
さらに、ティルティが「これはあなた自身の問題なのよ」と告げ、ユフィに自分自身が望むという選択肢を提示する。そして、ユフィは、この葛藤の理由はアニスの笑顔を守りたいと望む思いにあって、それは臣下ではなくアニスの親友・ユフィとしての思いであるということを自覚したのだと思う。
だからもう、ユフィは自分らしく、自分に正直であることを恐れない。アニスに王になって欲しくないと宣言し、それは立場も何もかもを超えたアニスを慕う想いが望むからこそと父に告げる。そんなアニスのことを友人を超えて、想いを寄せているという告白は、何よりも自分だけの自分らしいユフィの心だったように見えていた。
第11話「失意と決意の精霊契約」
国王へのユフィの直訴。それは、精霊契約の意思と王位継承の嘆願だった。
でも、そこでユフィが心得ておかなければならなかったのは、精霊契約の真実。それは、精霊の力を得る代償に、自らも人から精霊となり果ててしまうということ。さらに、やがては永遠の時間を生きる中で、記憶も感情も忘却に消え去ってしまい、最後に残るのは孤独のみという絶望的な結末だった。
それでも、アニスの代わりに王位継承権を継ぐために、ユフィは精霊契約を望む。そして、心配そうなアニスを安心させるように微笑むユフィだったが、しかしその顔に張り付いていたのは、数日前に「王位を継ぐから」とユフィに告げた時のアニスと同じ、隠しきれない哀しみのように見えていた。
でも、そんなユフィの押し殺した想いを、誰よりも自分が理解してあげられるからこそ、アニスは「ユフィに背負わせたくない!!」と言い放ったのだと思う。
それだけでなく、ユフィに王位継承権まで取られてしまったら、もう自分には何も価値が残らないように思えて仕方ないとアニスは吐露した。それにきっとアニスにとって、ユフィが隣りにいてくれるのも自分が王女であるからと心の何処かで感じていたようにも思う。だから、ティルティの助言もユフィの掛け値なしの肯定も、アニスは素直に聞き入れられないように見えていた。
第12話「彼女と彼女の魔法革命」
二人の想いを懸けた決闘は、ユフィの圧倒的な力がアニスを打ち破る決着となった。そんな結末が示すのは、そのユフィの力こそアニスがユフィにくれたものであって、ユフィが守りたいと願う自由な魔学の力を意味しているのだと思う。そして、そんな魔学の力に象徴されるアニスという一人の少女を、何よりアニス自身にも大切に愛してほしいというユフィのメッセージのようでもあった。
だから、女王・アニスを否定したユフィが選び取ったのは、新たな女王・ユフィと魔学の探求者・アニスという二人で歩む未来なんだと思う。それに、ユフィがアニスを守るということの意味は、決してアニスの立場を奪うことなんかじゃなくて、アニスがアニスらしくあれるアニスのための居場所を作ってあげるということになっていくのだと思わされた。
それに、アニスがアニスらしくあるためには、自分がその隣りにいなければいけないこともユフィは分かっているのだと思う。そして、そうやって二人で一緒にいる限り、ユフィだけが全てを精霊に身を捧げるなんて哀しい未来も否定されるように思う。
そんな、二人が二人一緒にいるからこそ、互いに自分らしくあれるというのが、アニスとユフィの関係として映し出されていた。そして、そんな互いを埋め合って成り立つ関係を象徴するように、二人の貴げな口づけが交わされたのだと思う。まるで虹《アルカンシェル》と、空《セレスティアル》が重なるように。
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