「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「シュガーアップル・フェアリーテイル1期」─恋の果実は二つに割れる─ 感想と考察
少女と妖精の恋路
銀砂糖職人になるという夢を持った芯のある少女・アンと、それを澄ました表情で見つめる妖精・シャル。出会ってまもない頃のそんな二人は相容れない場面の多い関係だったが、それでも二人で旅を続ける中で、いつしか特別な絆が二人を繋ぐようになっていた。しかし、それでも人間と妖精という神話によって位置づけられた主従の関係が二人の間に一線を引いていた。
だけど、シャルが昔仕えた少女の話を聞いた時、初めてアンはシャルへの想いを自覚し始めた。まるでシャルが自分以外の誰かのものであることが耐えられないというような感情の発露に、彼女自身も戸惑う。だけど、そんな嫉妬して初めて気づく気持ちが、シャルへ捧ぐアンの恋心の蕾だった。
そして、フィラックス公の城が王国軍に包囲される事件に巻き込まれる中で、アンはシャルと離れ離れになったしまった。一人恐怖の中に取り残されたアンは、そんな時だからこそ、いつも隣で寄り添っていてくれた彼の冷たい表情をしながらも温かい存在にすがりたくなってしまう。そんな焦がれるような想いに焚きつけられるようにして、アンはようやくシャルへの想いを強くはっきりと自覚する。「彼と離れたくない、一緒にいたい」と。
林檎の実がなる時
最初の年に参加した砂糖菓子品評会では、悔しくもジョナスの妨害によって、アンは銀砂糖子爵の栄誉を受け取ることはできなかった。それでも、「誰かの模倣じゃない、自身の心と感性からの作品だ」と国王直々にアンは自身の砂糖菓子を認められた。だからこそ、アンは一年かけて、その自らの心を表出させる砂糖菓子作りの腕前をさらに磨いてきた。そして、その果てに挑んだのが二度目の砂糖菓子品評会。
だけど、今度の砂糖菓子品評会は、アンにとってただ銀砂糖子爵になるためのステップに留まらないもののように見えていた。それは、彼女がこの一年間自分の胸の内で大きくなり続けていたシャルへの想いが実をつける時。この恋心を砂糖菓子としてシャルに捧げようという場に、この砂糖菓子品評会があった。
だから…、その最後に待ち受けていた真逆の結末が胸を貫くように悲痛だった…。
二人の愛が別れを導く
今年の品評会でもアンはまたしても謀られてしまい、その末に生成銀砂糖を失ってしまった。でも、シャルが密かに立ちまわっていた。彼はアンの夢・銀砂糖子爵を選ぶ品評会のために、彼女の銀砂糖の在処を知るブリジットに身を売ることを決めるしかなかった。その結果、彼は愛するアンのために自らを捧げ、アンのもとを離れるという自らの想いと相反する道を選んだ…。
だけど、そのおかげあって、アンは無事に自分の銀砂糖を取り戻すことができ、晴れて銀砂糖子爵になれた。その栄誉を掴んだ作品も、キースの作ったシャルの姿かたちの表面をかたどった作品とは異なったもので、アンの砂糖菓子はシャルへの溢れる想いを感情のままに表したかのような耽美なものだった。でも、だからこそ、何も知らずに喜ぶアンの笑顔があまりにも悲痛で、痛ましかった。
なぜなら、もう彼女が想いを捧げる相手は、その想いの結晶を作り上げることの代償に遠い場所へ去って行ってしまっていたから。
愛と離別、二つに引き裂かれる心
昨年の品評会での妨害を経て、今度こそとやっと認められたアンの実力と栄誉に対する嬉しい気持ちと、その代償に彼女が失ってしまったシャルとの切り離されてしまった愛にこみ上げる喪失感。この場面に流れ落ちる涙が何なのか自分でも分からないような、そんな純粋な感動と悲嘆の入り混じった空虚な感情が湧いていた。それに、アンがシャルへの愛を捧げたかのような、彼の美しい羽根をモチーフとした砂糖菓子は一体何だったのか、何を思えばいいのかも分からなくなってしまった。だから、王から銀砂糖子爵の栄誉を受け取ったアンへの祝福の言葉も全て虚ろに耳を通り過ぎていくようで、まだ自分が何を失ってしまったのかを知らないアンの笑顔がただただ痛かった…。
だから、銀砂糖子爵という最後のピースを得たことですべてを手に入れたかのように思えたアンが、真実を告げられた後の、全てを失ったかのような表情。そして、拭い切れない悔恨を滲ませるシャルの「離したくなかった」という言葉と「最後にせめて…」というようないつもはクールな彼らしくもない必死な抱擁は、もう金輪際二人の全てが断ち切られてしまうことを思わせるようにも見えてしまった。そして、シャルの乗った馬車がアンの前から徐々に、徐々にと遠ざかっていく最後の場面は、もうアンにはこの愛は届かないものであることを暗示しているようにも見えて、結局のところで一番大事なものが欠けてしまった結末に喪失感が満ちるばかりだった。
やっと、やっと繋がり合えるはずだった二人の淡い恋心だったのに、愛し合ってしまったからこそ引き離されてしまう残酷さと、互いに自らの愛を証明するための行動がこの最後を導いていたという自分で自分の胸を引き裂くような事実が慟哭を上げていた。
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