「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」─優しいだけじゃない大前新部長─ 感想と考察
新部長・大前久美子
ユニットごとのオーディションで挑むアンサンブルコンテスト。初手で麗奈は「なぁなぁで済ませるのはキラい」と言い切っていた。
一方で、久美子は部長として部内のバランスを取るためにも、どこかふわふわと優柔不断そうな姿にも見えるようだった。
もちろん、久美子にもその自覚はあって、かつての小笠原部長の「優しいなんて、他にほめるところがない人に言うセリフでしょ」という叫びを思い出し、部長・大前久美子を演じるような波風を立てないやり方に葛藤を覗かせる。
一方で、鎧塚みぞれは「窓を開けるのが上手いね」と遠回しに久美子のバランスサーとしての立ち回りを肯定してくれる。それは、かつて彼女自身が部内のいざこざのただ中にいたからこその視点であり、的確な評価であることに間違いはないはず。
対となるトランペット
そんなところで、再び対象的に映るのが高坂麗奈だった。彼女はアンサンブル編成に際して、完全なる実力主義とオーディションを勝ち抜きたいというエゴを携え、強くて優しくない立ち姿だった。間違いなくそれは部内の調和を目指す久美子と対になるものだった。
とはいえ、そんな麗奈だからこそ、彼女はユーフォニアム一番手の久美子を選ぶという側面があることも事実ではあるし、久美子にも内奥に「勝ちたい、上手くなりたい」という思いはあるのだ。だから、バランスと調和の部長・久美子も、麗奈と二人きりの時だけは、ただ純粋な大前久美子として素の姿、気負いのない表情を浮かべられていたのかもしれない。「実力で劣れば麗奈の隣りにいれない……」という微かな不安は残しながらもだが。
生まれ変わる北宇治
そんな右に振れ、左に振れた久美子が描く部長像というのは、アンサンブルのユニット練習でいざ固まってきたように見えていた。麗奈の厳しい結果第一のコントロールは確かに正しいと久美子も評していたが、ユニット内の余裕のなさを生んでいることも明らかではあった。
だから、久美子が部長として振るタクトというのは、みんなそれぞれに客観的な視点に基づいて、それぞれが主観的に受け取れるよう導くようなアドバイスだった。棘を立てないが、実力や結果も求めるそれは、決して「なぁなぁ」ではなかった。それに、それはいつも裏を取ったような視点の発言や発想をする久美子だからこそできる彼女らしい部長像のようにも感じた。
それ故の、釜井つばめに新しい気付きを与えて実力を引き出し、そして自信を付けさせていくシーン。それは、大前久美子部長体制を象徴するものだったと後々振り返られる場面になるであろうものだった。
そして、もちろん校内オーディションに敗れた麗奈の瞳に映る悔しさは、久美子にも北宇治での初心に再び火を点けるもの。そんな剛柔合わせた大前久美子のタクトがコンクールへと北宇治を導く予感を残すようだった。
Tags: