「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」

「色づく世界の明日から」─現実が嫉妬する程、美しい世界─ 感想と考察
Publish date: Mar 22, 2021
色鮮やかで現実が嫉妬する程に美しく描かれた世界に、見ていてどこか羨ましさすら込み上げてくる感覚すらあった。
そして、その世界を白黒にしか見えない瞳美のどこか靄のかかったような表情やその奥にある心の内に感傷的な魅力を感じた。
1人過去に投げ出された孤独で何もわからず怯える瞳美だったが、すぐ写真美術部の仲間が手を引いて輪の中へと導いてくれた。さらに彼らは、塞ぎ込み続けていた彼女が前を向けるきっかけをもたらしてくれた。キライだった魔法が誰かを幸せにできるものということも、見えないはずの彩りを欠片も彼らが瞳美に教えてくれた。
誰かに喜びをあげた分だけ自分も幸せになれる。この魔法の与えあう関係が瞳美の世界を彩り始めた。
それでも時に影が射す場面は付きまとうもの。だけど立ち止まって思い悩んでも、二度と同じ一瞬は巡ってこない青春の1ページ1ページは繰ることを止めない。
だから、彼らは流れる一瞬一瞬にその時々の想いを全力でぶつける。そして、喜びも痛みも分かち合える仲間たちの姿が後ろに待つ彼らに飛び込むことへの恐れはない。
そうしてこのひと夏のタイムトラベルの果てに、瞳美は酸いも甘いも全部が自分が進み行く道を照らしてくれる七色の光となってくれる想い出を得た。自分の気持ちを押し込めてなかったことにしないで一心不乱に生きることは時にその分辛く苦しいけれど、そうして切り開いた未来には魔法のかかった色鮮やかな輝きが待っている。
60年の時を越えたかけがえのない青春を経て瞳美は少し大人になれた。
そして彼女の姿を見守ってきた自分の胸も何か大事なものを受け取ることができたような気がする。
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