「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「アイの歌声を聴かせて」─その純粋さを守りたい─ 感想と考察
子どもには自分に対して素直に純粋になれば、あなたは幸せになれると歌う。
大人には他人に対して真っ直ぐな視線を向けられれば、みんなの世界が幸せになると歌う。
純粋色に染めて
実証実験のため送られた先の学校で、シオンのAIとしての融通の効かなさは浮いた言動となって目に映る。だけど、同時にシオンのその純粋さは、思春期の複雑な感情のせめぎ合いも浮き彫りにする。自分の気持ちにどこか壁を作ってしまって素直に自覚できないから、人にも表せないでいる。
でも、ある意味で無垢でまっさらなAIはそんな入り組んだ感情なんて考慮しない。シオンはその純粋さの赴くままに周りを巻き込んで、まどろっこしい感情のもつれとすれ違いをほどいていく。こうしてシオンは青春色に溢れるトラブルに寄り道しながらもサトミたちにシアワセをもたらした。
しかし、一部の大人たちのシオンに向ける視線は彼女の純粋さからは遠く離れたものだった。単なる機械や製品以上の意思を持つAIは恐怖の対象だった。そもそもシオンの開発の裏では開発者であるサトミの母はくだらない社内政治に足を引っ張られて、その志しは挫かれようとしてた。彼らの瞳にはシオンやサトミたちの持つ純粋さの輝きはなかった。
だから、シオンの力の前にサトミの母が「これってすごいことじゃありませんか!?」と興奮気味に話す姿には、まだ彼らの純粋さを理解ってくれる、共感してくれる大人もいてくれる救いにも似た感動が胸を熱くさせた。シオン奪還の一幕はサトミの母やシオンの操るAIロボットたちというピュアさに溢れる存在が、まだ真っ白で如何ようにも染まれる子どもたちを肯定して背中を押してくれるようだった。
AIと共にある未来
AIと共に発展した世界を舞台にした作品と言えば、GHOST IN THE SHELLのようなAI化した社会そのものの危険性やその中で失われてしまった人肌の温かさを描いた作品が多いように思える。その中で、すごいことをすごいと言える誰しも持っていたはずの純粋さを思い出させてくれるようなアイ歌はとても印象的だった。近未来的技術の産物と片田舎に広がる自然とを一体化させた美しい風景は、まさにこれのメッセージを象徴するように映った。海辺にずらっと並べられた太陽光発電パネルに澄んだ星空が反射する様なんてまさに圧巻だった。テクノロジーと自然、あるいは人の暖かい部分を融合させた「アイの歌声を聴かせて」はAIと共にある未来というものをオプティミスティックに描き出していた。
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