「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「プリンセス・プリンシパルCH 1章」─スパイとは何者なのか─ 感想と考察
スパイとは何者なのか
退屈な貴族という型から解放されたウィンストンが収まったスパイという型はあまりにも不安定だった。いくつも付け替え、時には重ねて被る仮面の下の本当の自分はいつしか曖昧なものになってしまった。
それでも、侍従長としてシャーロットに接してきた彼はたとえ唯一でなくとも一つの本当のウィンストンだったのだろう。
ビショップとしてアンジェと接触した時の「小石を投げられて自ら波紋を広げるのはそうだと言っているようなものだ。」という脅しじみた忠告も実際は、彼がチェスのシーンでノルマンディー公から「多くを語ると足元を掬われる。」と言われたように皮肉にも自分自身が踏み外した失敗を語っていた。自分が辿ってきた道をアンジェにも踏んでほしくない、安らかに生きてほしいという願いは彼の偽らざる本当の部分だったのであろう。
しかし、現実はスパイのように嘘をつかない。いくつもの仮面を被ろうともその下の顔はスパイである事実は変わらない。ウィンストンは最後、王国側でも共和国側でもない謎の刺客によって暗殺された。彼の運命はスパイとして無情に収束してしまった。
チェスが見透かす心理戦
第一章の見所はやはり、ノルマンディー公が観戦する前でのアンジェとウィンストンのチェスシーンだろう。アンジェとウィンストンが腹の探り合う一局の前にノルマンディー公が現れた瞬間の緊迫感といったらこれ以上ないほどに張り詰めていた。そして、ノルマンディー公とウィンストンの何がとは言わないもののはっきりとそれと分かる示唆的な会話。目の前の相手の全てを見透かしたような物言いにも関わらず、特段決定的な行動を起こさない不気味さと肝を冷やすような緊張感には思わず痺れた。
小ネタ(?)
ウィンストンを暗殺した第三勢力からの刺客が、プリンセスがウィンストンの部屋に忍び込んだシーンの後のチェスシーンで背景のモブキャラの中に紛れ込んでいたのを見つけてしまった。浅黒い肌なので注意していれば割と見つけやすそう。
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