「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「お兄ちゃんはおしまい!」─まひろと学んだ12のことと、1人のらしい自分─ 感想と考察
第1話 まひろとイケないカラダ
始まったのは超高品質な映像で描かれるポルノアニメ。
まひろの手足の華奢さとイカッ腹具合が絶妙に犯罪的。そして、絶妙に大事なとこを隠すレイアウトや戸惑いでおろおろキョドキョドするまひろの仕草や動き。それはもうフェティッシュな描写がイケナイほどに引き立てていた。
その一方で、同時に映し出されたのは、細やかで健気で抱きしめたくなるような「きょうだい」愛だった。ちっこい妹がもっとちっこい兄をよしよしする姿はその象徴であり、そんなピュアな愛おしさがこの物語の本質・中心にあることを予感させるものだった。
第2話 まひろと女の子の日
兄妹が姉妹になっても、きょうだいの繫がりは変わらないんだって回。
銭湯で見かけた兄妹に、まひろは幼い頃にみはりの髪を洗ってあげていたことを思い出す。今はまひろちゃん、おねぇちゃんなんてふざけて呼んでみたりすることになってしまったけど、変わらないのはきょうだいであること。
みはりの裸を見ても何にも思わないやとまひろがからかうことも、女の子の身体でおしゃれするのが楽しくなってきちゃったまひろに影響されて自分もみはりがおしゃれしてみること、初めての生理に戸惑うまひろをみはり看病すること。それは友達や親子とは違う、何か決定的な壁のない関係、ギブアンドテイクみたいな対等な関係である一番近くの隣人だから生まれる光景なんだなって思わされた。
第3話 まひろと未知との遭遇
モールに繰り出したまひろとみはり、大人に囲まれるとやっぱり二人のちっこさが際立って、幼いきょうだいだけの切なさとか脆さみたいな印象と、だからこそきょうだいの絆みたいなものが目に映る。
そして、爆乳おねーさん・かえでの登場。みはりとはまた違って、どこまでも頼れる包み込むようなお姉さんの存在は、みはりのお姉ちゃんだけど妹であることを印象付けられた。まひろにとってみはりはお姉ちゃんである前に妹、だから女の子の身体になっても時には兄らしくみはりを看病したりして守ってあげなくちゃいけない。
そして、みはりが思い出すのは昔のまひろ。最近のまひろはすっかり自分と遊んでくれなくなっていた、だけど女の子の身体になった兄は昔みたいに優しくしてくれて、たくさん話をしてくれて……。兄が妹になってしまったからこそ、かけがえのない兄妹の繋がりを思い出す、そんな1話でした。
第4話 まひろとあたらしい友達
まひろがこの身体になった意味みたいなものを感じた回。
以前は一人で部屋に引き籠もっていたまひろだったけど、女の子の身体になってからはずっとみはりが傍にいた。だから、そのみはりがいない今日はなんだか寂しい、前のような一人の日常に帰るとなんとなく心細い。
そうして、ふと気付くきょうだいの存在が心にくれる温かさとか安心感をまひろは感じる。だから、みはりが帰ってきて、二人の日常が戻るとまた心があったかくなって、ちっちゃなお姉ちゃんにこの兄は甘えたくなってしまうのだ。
そして、もみじとの出会いのBパート。初めての友達となった彼女はきょうだいとはまた違った距離の近い存在。同じ目線でふざけ合ってバカやって、それはお姉ちゃんとはできない楽しみの一つ。さらに頼り頼られではない理由がある友達という関係に、まひろは思わずラッキースケベを食らうような形で男の子とか女の子とかを意識させられてしまう、バカだね〜〜。
第5話 まひろと補導とお誘いと
美容室へ行くまひろちゃん。なんか気付いたらセットされてたけれど、フワッとした髪はなんだかおねぇさんっぽい印象があるわね。
そして、ハロウィンパーティー。南瓜三昧の席でふと出た話、中学生の頃のみはりがよくかえでにお兄ちゃんの話をしていたということ。まひろはなんだか陰口だったんだと勘違いしていたけど、みはりはなんだかんだ昔からお兄ちゃんのことが好きなんだってことを実感できた回。
第6話 まひろと二度目の中学生
なぜか急に中学校に行くことになったまひろ。というのも……、発端はもみじとそのクラスメイトのみよとあさひ、学校帰りの彼女たちと女子会をする中でまひろは同い年(?)の女の子たちとの気のおけないやりとりに花を咲かせる。
だけど、帰り際のまひろは何だか遠慮気味、それは友だちの輪に勝手に混ざってしまったような感覚のせい。でも、同時に「また明日か…」と寂しげな表情も浮かべるまひろ。
だったら、その輪に入ってしまえば良い!と言いたげにみはりにお古の制服を用意されて、まひろは飛び込む。最初は戸惑いつつあったまひろだけど、でももみじやみよ、あさひのおかげですぐに溶け込めて、またしてもなんだかんだこの生活を楽しみ始めるまひろの笑顔が見ることができた回。
第7話 まひろとロールプレイ
楽勝だと思ってた中学校のテストでうたた寝、そしてまさかの補習なまひろ………。
だけど、もみじには「まひろはやっぱこうじゃないとね」と言われて気付く。変に気張らなくて良い、余計なプレッシャーを感じなくて良いのがこの女子中学生の身体になった自分こそが、ありのままの自分になれる姿なのだ。
一方で、同時に悔しさとちゃんとしなきゃという思いもあって自主勉強にもまひろは励む。みはりにはえらく褒められたけど、でもこの姿もまたまひろらしさなのかもしれない。今まで引きこもっていたまひろはのしかかるプレッシャーの反動、のびのびとさせてみればまひろだってちゃんと頑張れるのかもしれない。
調理実習のクッキー作りのパート。かえでにクッキー作りを教えてもらう中でまひろが知ったのは、かつて自分を思ってクッキーを作ってくれていたみはりのこと。そして、今まで知らなかったみはりの兄への想い。今度は妹となったまひろが姉みはりへ思いを込めて作る番、クッキーにはみはりの喜ぶ笑顔を想像した愛情を込めて。お姉ちゃんはもう泣いちゃうくらい嬉しい。
第8話 まひろとはじめての女子会
お泊まり会はおねーちゃんでいもうとなまひろを見れた回だった。
もみじたちが家に押しかけてきて始まったお泊まり会で、「お風呂に誰と入る?」となったまひろはなぜか結局みはりと入ることに……。みはりとの混浴?に何とも思っていないまひろとは対照的にドギマギさせられてしまうみはりだけど、昔を思い出すなぁというまひろの言葉になんだか心の距離が縮まる。
そして、おやすみの時間。あさひがお化けの話でびびらせたせいで、もみじがおねしょ………。だけど、まひろが本当は年上のおねーさん?らしく、上手く片付けてくれた上、おねしょのことまで庇ってくれて。一方で、自分が寝る布団がなくなったからと、みはりの布団に潜り込むのはちょっぴり甘えた心の裏返しのようにも見えたり。そんなまひろの年上らしさと同時にその裏返しの年下らしさを覗かせた回。
第9話 まひろと年末年始
クリスマスに年末年始とこの一年を締め括る時期。まひろにとってのこの一年は新しいこの身体で、新しい出会いを重ねた一年だった。クリスマスにはみはりとかえでを追って、もみじとデート!?で、初詣の先ではあさひやみよと出会い、まさにこの何もかもが新しかった一年を象徴するようなイベント続きだった。
そんなまひろが初詣でこれからの一年にお願いしたことは……、きっとそれは言うまでもなく、この輪をもっと笑顔で満たしていきたいということなんだと思う。
第10話 まひろとおっぱいとアイデンティティ
バレンタインといえば、いつもは渡される側(といっても貰えてないだろうけど)のまひろだけど、今回は渡す側。友チョコ交換はまさに女子の特権!!
だけど、それを悲嘆な目で見る男子たち、そう、まひろにはその気持ちが分かるのだ。だから、いつもの少年たちにお情けの義理チョコを……と思ったら、飢えた男子たちの餌食になりかけて………。
結局、みんなが手作りチョコをくれる中で、まひろの友チョコも義理チョコもみはりが用意してくれた一律同じな既製品だったけれど、そんなみはりにあげるチョコはちょっと特別なチョコ。お姉ちゃんにはとっておきの感謝の気持ちを込めてハッピーバレンタイン。
第11話 まひろと女子のたしなみ
女の子が板についてきたまひろ。
誕生日プレゼントでもらった色付きリップを塗ったら先生に怒られて、ホワイトデーには男子のお返しをこれじゃ足りない!!と突っぱねてみたり、年相応の女の子らしさ!?がいよいよ身になってきてしまって、もうこれこそおしまい!なのでは…!?
第12話 まひろのおしまいとこれから
みんなと温泉旅行。だけど、薬の効果が切れそうになってしまって……!?そこで、まひろに突きつけられたのは再び女の子になる薬を飲むかどうかという選択。
そして、まひろが選んだのは再び薬を飲むという選択肢。
もちろん、これでまたまひろにとって、元の姿になる道は遠くなってしまう。だけど、それ以上にまひろが欲しかったのはこの日常が続くこと。もみじたちに囲まれたわちゃわちゃした日常の景色やそんなみんなとの間に生まれたこの繋がりはこの身体がもたらしたもので、まひろ♀がいなければこの輪は完成しない。
みはりが言うようにまひろは変わった。以前のように出不精のコミュ障から少しだけ進んで、みんなと楽しく外に出ることにも臆することがなくなった。それに何よりもまひろがまひろらしくあれているのだ、以前の自分に自信なさげな姿とは違って、今のまひろはかわいらしい自分にどこか自信のようなものを持って、ありのままの自分らしくあれている。妹として姉として、みはりが嬉しいのはそこなんだと思うし、それがお兄ちゃん改造計画で求めていたものなのかもしれない。
このちょっと不思議な日常はまだ続く、だけどそれにつれてまひろはもっとまひろらしくあれるのだ。
全12話を通して ─まひろが描いた物語─
この物語は何を描いていたんだろうと振り返ってみると、やっぱり「自分らしい自分」や「ありのままの飾らない自分」ということなんだと思う。
女の子になってしまう以前のまひろの姿は直接的には描写されないけれど、ひきこもりがちな性格や「お兄ちゃんは変わった」というみはりの言葉から内に閉ざしたような姿が容易に想像できる。でも、その一方で、子どもの頃のまひろは妹想いの優しいお兄ちゃんということも語られる。
何かがきっとまひろを変えてしまったんだと思う。子どもの頃から大人になるその間で、何かがまひろを内に閉ざさせてしまった。
でも、また再びまひろは変わった。みはりの薬で女の子となってしまい、女の子としてのアイデンティティに曝されて、新しい女の子としての生き方や女の子たちとの新しい繫がり。全てが未知で新しい自分だったけれど、そこに浮かび上がるのは素のまひろ自身。今まで何かから自分を守るようにまひろを覆っていた殻からまひろは解放された。
女体化してお兄ちゃんとしてはおしまい!になってしまったかもしれないけれど、それ以前のおしまいな人間だった自分を少しずつ忘れることができた。そうして生まれ変わったまひろの姿というのは、ダメ人間に成り果ててしまう前の自分。そして、それはすなわち優しいお兄ちゃんだった頃の自分。だから、元のとはすっかり変わってしまった兄にこそ、みはりは昔の一番大好きだった頃の兄の姿をふと感じてしまうのだ。
そして、まひろにとっても、最初は女の子になってしまったことに戸惑いしか感じていなかったが、最後には自ら元の男に戻る選択肢を拒否した。それはただ女の子としての新しい自分を気に入ったということ以上に、プレッシャーから解き放たれたありのままの自分になれたという実感があったからだと思う。変わってしまったことで、まひろはむしろ元の素の自分に戻れたんだと思う。
そんな変わることで本来の等身大の自分を見つける物語、生きづらい世の中で新しい世界に解放されていく生き方。それが「お兄ちゃんはおしまい!」という物語だったように映った。
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