「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「夏へのトンネル、さよならの出口」─二人だけの未来─ 感想と考察
外と中で異なる時間の進み方をするウラシマトンネル。
これは過去に囚われた花城と塔野を永遠にその過去に閉じ込めるもののように見えていた。だけど、二人を結びつけもしたこのトンネルは、それぞれの捨てきれなかった過去と向き合わせ、そして未来へと送り出すための存在だったのかもしれない。
そして、その未来はただ待ち受けていた未来ではなくて、二人が一緒に巡り合って手にしたものだからこそ、鮮明に輝く未来になったのかもしれない。
二人のすれ違い、隔たれた想い
塔野くんはカレンちゃんを取り戻すためなら、全てを犠牲にすることだってできる。そんなこと私にはできなくて、だからそんな塔野くんが私の目には特別に映った。
そんな塔野くんが私の漫画をおもしろいと言ってくれた。塔野くんが私を見つけてくれた一人目で、私を特別にしてくれた。それにウラシマトンネルの中で私の漫画の原稿を見つけた時、塔野くんは私を置いていかずに一緒に原稿を拾ってくれた。塔野くんにとって何を犠牲にしてでも取り戻したいカレンちゃんみたいな、大切で特別な存在に自分もなれた気がした。塔野くんの見ている世界の中で、私も塔野くんの視界に映ってるような気がした。
だけど、塔野くんは私を置いてウラシマトンネルに入ってしまった。
ずっと自分は独りだと思っていた。自分だけが独りだと思っていた。だけど、ある日そんな自分の前に表れた花城も独りだった。そして、花城と一緒にいると独りじゃない気がした。
けれども、花城は特別な才能を持っていた。彼女の漫画はおもしろい。出版社にも目を付けられるくらいおもしろくて、そんな彼女をウラシマトンネルに連れていけるわけなんてなかった。独りなのは自分だけでいい。
だから僕は花城を置いてウラシマトンネルへ入った。
そして、ウラシマトンネルの中でようやくカレンを見つけた。だけど、幼い姿のままのカレンに対して、僕は17歳の姿。失った時間は帰ってこないことを突き付けられた。そして、カレンに気付かされる。お兄ちゃんはまた大切なものを失いそうになっていると。
それは大切な人との未来。喧嘩して逃げてカレンとの未来を失ってしまったように、今また花城との未来を失いそうになっている。失ってはいけない、届けたい、伝えたいことがある。
「ずっと、ずっと」「大好きだ」
私たちはあの日からの13年を失ってしまったかもしれない。だけど、僕たちはこれからの永遠を手に入れたんだ。
二人の永遠へのトンネル
とある夏に二人の前に現れたトンネル。中へと入れば、紅く色づいた紅葉が連なっている。そして13年の時を経てトンネルから出たところでも、二人を包むのは色とりどりに紅葉した木の葉たち。夏が過ぎれば、秋が来るのだ。そして、夏の生命力に溢れる青さと暑さを体感したから、秋に染まった赤黄の木の葉みに感じる物悲しさが、ただ寂しげなだけではない魅力的なものに映るのだ。
それに、二人一緒なら何気ない瞬間もきっと鮮やかに美しく見えるはず。灰色の世界も二人の目には夏の真っ青な青空、秋の彩り鮮やかな紅葉に見える。そして、冬の白銀の雪景色や春の桜色の並木道へと続いていくのだ。
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