「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「時光代理人-LINK CLICK-」─中国アニメの本気と衝撃─ 感想と考察
LINK CLICK
繁華街の一角に佇む「時光写真館」。
そのさびれたドアの奥には、特殊な能力を持った2人の男がいた——。
写真館を経営するのはトキ(程小時)とヒカル(陸光)。トキの幼馴染・リン(喬苓)を通じて顧客から舞い込む依頼を遂行すべく、「撮影者の意識にリンクし、写真の世界に入ることができる能力」を持つトキと、「その写真の撮影後12時間の出来事を把握できる能力」を持つヒカルはコンビを組み、過去を引きずるクライアントからの依頼を解決していく。
『絶対に過去の改変をしてはならない』ルールのもと依頼を遂行していた二人だが、正義感の強いトキはつい過去に干渉してしまい、その行動はやがて少しずつ未来を変えていく——。
动画/Chinese Donghuaのポテンシャル
まず言及しておきたいことは、この作品が中国のアニメ会社制作のオリジナルアニメということである。
中国アニメといえばなんとなく低クオリティな認識があるとは思うが、本作はその真逆の高クオリティ。感動、サスペンス、ミステリー、ダークファンタジーというそれぞれで一級の要素をすごいレベルで組み合わせられていた傑作だった。
中国アニメというと2020年に日本で吹き替え版が上映された『羅小黒戦記』があり、個人的にも鑑賞者の大勢からも映像、ストーリー共にレベルの高いものだったが、個人的にはジャンルは違えどストーリーラインでいえばそれを上回る印象、もっと言えば"衝撃"を受けた。まざまざと中国の“动画”のポテンシャルを見せつけられた。
そしてタイムリープという傑作アニメにままある設定も、独特で斬新な使い方をされて、時を繰り返せると分かっていてもどう展開していくのか分からないハラハラした緊張感が常に作品世界に満ちていて、使い古されがちながらも新しいものだった。タイムリープ設定でありながら1話から3話で完結するエピソードを送るというのは、タイムリープ特有のあの驚きや緊張、感動を何度も楽しめるというのは非常に満足感があった。
加えてサスペンスな緊張を煽る劇伴、それぞれの回でフィーチャーされる登場人物のバックグラウンドの深み、特にOPに象徴されるぬるぬる作画や没入感ある背景、さらに割と注目なのが文化的背景を踏まえた翻訳(中国文化や言語に詳しくないので推測だけれど、言い回しなどから意訳っぽいものはちょいちょい分かる)も素晴らしかった。
非ネイティブの憂い
日本語版へのローカライズをしているプロデューサーがインタビューで述べているが、方言やスラングといった台詞などのストーリーの面や映像尺や構成などアニメという形式面での文化的な違いがあるということで、視聴者として見ていても随所にそういった点に気づいた。
自分が気になった点をいくつか挙げると、そもそもアスペクト比が16:9(1.78:1)であるのだが、どうやらこれはスマホで見ることを想定したものらしい。
また、12話で「寒い地域の人だからお酒を飲まないわけがないじゃない」みたいな台詞があったが、あくまで言語学徒としての勘ではあるが、原語では「(中国)東北地域の人だから~」あるいは「○○省の人だから~」となってそうではある。この手のものは注意して聞いていると他にもいくつかあると思う。
個人的に一番気になったものは、挿入歌が原語であることだった。特に第2話。物語の文脈と密接な関係にある挿入歌は時に作品の感動を増幅させるものだが、中国語で歌われて歌詞が字幕で表示されるとそれを目で追いながら、キャラクターの台詞を聞き取り、読み取ったそれらを自分の中で感動に落とし込もうとするのはとても難しかった。しかも、せっかくの耳障りの良い中国語の挿入歌に耳を傾けようともすると頭がパンクしそうになって、感動どころではなくなってしまいそうだった。
海外のアニメオタクたちは日々こんな風に歯がゆく思ったりしながらアニメを見ているのかと身につまされるようだった。それと同時にネイティブの文化的背景や言語でアニメを見ることができて、作品に込められたものを個人の好みを除けば100%で享受できることへのありがたみと価値も感じた。海外のアニメオタクが日本かぶれのWeeabooになり果ててしまう気持ちも分からなくもなかったりする。
また、日本に次ぐアニメーメションでないアニメの作り手として、比較的に多くの価値観を共有していたり文化についてシームレスに適応できたりする中国が台頭したことは嬉しいというか幸いだったみたいな率直な思いもある。
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