「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」─暗く黒い過去に見出す白光─ 感想と考察
Publish date: Jun 11, 2023
この世で最も黒い絵に始まったこの物語が暴いたのは、巻き込まれた人物たちの黒く暗い過去。そして、仁左衛門と奈々瀬の暗く悲しい悲劇だった。
だがしかし、そんな救いのないような話であっただろうか?その余韻には確かな光があったように思う。
たとえば、亡き父を姿をルーブルに見つけ、そこに自らを重ねた編集の泉が一番わかりやすい例。
また、露伴にとっては、若かりし日のもやもやとした奈々瀬の記憶だったけど、自らの出自を含めて全てが紐解けたことで、あの一時の日々があったからこそ、今の漫画家として大成した自分があったと振り返ることができたように思う。奈々瀬に対してまだ自分は漫画家と名乗れる程じゃないと言った若かりし露伴と、今の言ってしまえばふてぶてしくもある漫画家・岸辺露伴のコントラストがそうであるし、そこに共通する奈々瀬を描いた漫画の原稿が映る回想とラストの場面がそう思わせる。
では、一見すると、悲劇のヒロインとして終始したようにも思える奈々瀬にとってはと言うと、もちろん彼女の主観としてそれは否めないかもしれない。だけど、彼女が仁左衛門を愛した末の怨念により、再び怪異的に姿を現し、露伴と出会ったことは間違いなく露伴の漫画家としての経歴に必要な過程だったように映る。それに、絵師・仁左衛門と同じように芸術を突き詰める一人の男の世界観を良い意味で変えたという事実は意味があったものだった。
そんな風に振り返ってみると、美術という意味でも、奈々瀬という女性の美しさという意味でも、美が良くも悪くも人を狂わせたという印象が残る物語でもあった。
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