「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「君は放課後インソムニア」─眠れない、フツーになれない二人の満たされていく青春─ 感想と考察
第1話 能登星
眠れなくて退屈で憂鬱な夜を楽しくしてくれる。それが中見にとっての曲だった。
中見と曲は不眠症という悩みで繋がって、天文室や夜の町と二人だけの世界へ飛び込んでいく。その中で、中見は寝なきゃいけない夜を楽しんでも良いと知っていく。それはきっと、曲に寄り添うことで、抑圧的な世界の中で、少しくらいちゃんとせずに甘えても良いと気付けたことのように見えていた。
第2話 猫の目星
不眠症な二人の隠れ家である天文台のことがバレてしまって……。
でも、二人は逆に天文部として認められた。それは居場所が認められたということであり、もうこそこそ隠れるように息を潜める必要もないということ。徐々にだけど、二人はこの世界の中で、気の休める場所を獲得していってるように見えていた。
第3話 一つ星さん
とりあえずの天文部の活動を立てるために、中見と曲は、天文部の先輩である白丸へ会いに行く。そして、彼女から教わった夜空の撮影で、二人の夜はもっと楽しいものになっていく。
でも、それは二人だけではない。高校ではずっと一人の天文部だった白丸も、同じ夜を楽しむ仲間を得られて、孤独の趣味から解放させられていた。だから、七尾城跡の星景写真を二人に共有できた時の嬉しさと気恥ずかしさだったんだと思う。
第4話 天津甕星
天文部の活動を通して、眠れない二人でもフツーの人みたいになれたような気がしていた。でも、街中で別々の友達といる中でふと出会した二人のドギマギした反応や、深夜徘徊を咎められたことに激昂する中見を見ていると、やっぱり違うと思わされる。
どこまで行っても結局、中見も曲も夜寝て昼起きるみんなとは違うのだと確かめさせられるようだった。そして、だからこそ二人は寄り処を求めて、惹かれ合っていくように見えていた。
第5話 飛び上がり星
臨海学校。どうしようもなく痛感させられるのは、みんなはフツーに眠れる中のに自分だけが眠れないこと。「やっぱり自分は普通じゃないのか…」という思いが中見の胸を刺す。
そんな夜の七里浜の午前4時、曲は約束通りに待っていた。そこは、二人以外の他には何も水面を揺らさずに、空の星を海に映している二人だけの砂浜で。そして、眠れない二人が休める場所のない世界の中で、今この瞬間だけは中見と曲の二人だけの世界が広がっていた。
そんな夜空の下で、二人は互いに曲と眠る時が、中見と眠る時が一番よく眠れると打ち明け合う。それが示すのは、二人にとって互いに二人だけがこの世界で息をする居場所をくれるということだったように見えていた。
第6話 走り星
流星群の観測会を行うために人を集める中見。だけど、慣れない協力プレイ、わざわざ手を貸してくれるみんなのことを思うと不安でいっぱいになってしまう。
そんな中見を見兼ねた先生が、「欠点とはまだ使い道の見つかっていない才能である」という言葉を教えてくれた。中見のその面倒くさい性格も、いつか花咲かせる日がくるかもしれないと。
そんなみんなと住む世界が違うように感じている中見だけど、同じ悩みを抱える曲を介しながら、この観測会のために、クラスメイトたちと関わりを作ってきた。そして、それは先生の言う花咲く日というのも、実は近いのかもしれないと感じさせる姿として見えていた。
第7話 花火星
曲が眠れない理由、それは幼い頃の心臓病だった。もう治っているのだけれど、でも夜に眠りに落ちたまま心臓が止まってしまうんじゃないかという不安が、曲を眠らせてくれない。
それでも昼間は気丈に明るく曲を見て、中見は誰しも悩みを抱えながら生きていると教えられ、不安の中で一人孤独じゃないんだと気付かされてきた。だから、今度は中見から曲にあげる番。この眠れない夜を曲のために眠らずにいることにした。それが、中見の不眠の使い道。
そして、曲の不安がこの夜から消えるまで、互いの声も息遣いもラジオに乗せて伝える。それは、離れていても同じ月の下、すぐ隣で互いの不安を優しく抱きしめ合っているように見えていた。
第8話 集まり星
流星群観測会の夜は雨も雨、大雨だった。そして、心を曇らせた中見だった。きっと、中見はこの流星群観測会を成功させて、それでやっとフツーになれるんだと思っていたんだと思う。観測会の準備の過程でクラスメイトと仲を深めて、最後に本番の観測会を成功させられれば…。
だから、「何か頑張っても、最後にいつもこうなるんだ」という中見の悔しさと虚しさの吐露だったように聞こえた。結局、眠れない憂鬱な夜と同じで、この雨雲が陽を遮る。
そんな時に、不意に曲が「初めて夜に出かけたあの夜から、中見はずっと私の特別なんだよ」と口走っていた。そうやって、中見にとっても同じ様にあの夜から、憂鬱な夜でも雨でも、ふと自分を照らしてくれる曲がいたことを思い出したんだと思う。
そして、中見にとっても、曲にとっても、互いが不安定な心の隙間を埋めてくれることを確かめ合う口づけのように見えていた。
第10話 姉はん星
中見が眠れない理由。それは、子どもの頃、中見が寝ている間に出ていった母親にあった。でも、だからこそ、中見にとっては眠れない夜に寄り添ってくれる曲のことが特別で大切なんだと思う。
そして、夏合宿。曲の姉の方、早矢に「あいつ可哀想じゃない?」と問われた中見だけど、彼の返すのは「伊咲さんは、僕にとってカッコよくて眩しい」という答えだった。それを聞いて、早矢は安心して妹を託すことができたように見えていた。
第11話 夜明けの一番星
夏合宿は続く。そして、曲と同じ屋根の下で寝て起きて、そんな日々に不思議な感覚を覚える中見だった。それは、起きた時に母親がいなくなっていたような朝ではなくて、目を覚ませばすぐ隣に曲がいる朝なんだからだと思う。
そんな中で、今度は自分が眠れない理由を中見は曲に打ち明ける。そして、思い出してしまった不安が溢れて、頬をとめどなく伝う。
そんな時に、曲からの不意な口づけ。それはきっと、中見の不安そうな顔を見たくないという曲の想い、そうさせないための中見にとっての曲の存在を表していたように見えていた。
第12話 迷い星
中見と曲が過ごす家に、受川や蟹川たちみんなが集った。中見は星空の写真をすごいと言ってもらって、照れくさくて。そして、みんなで花火して、歌って…、そんな夏の宵は中見にとって、どこか憧れにも似た「フツー」の青春の1ページだったようにも見えていた。
そして、みんなが帰った後、再び二人きりに戻り。そんな時の、おじいさんになったらおばあさんになったらというふとした会話の中、曲は「そんな未来の話、知らない」と寂しそうな表情を浮かべた。それが意味するのは、この青春が永遠に続かないということのように映った。そして、そんな曲の手を握った中見の心は、そんな儚い青春への共感と共に、だからこそ曲との関係をもうこの曖昧なままにしておきたくないという決意じみたものを抱いていたように感じた。
そんな時に、曲の母親からの「今日すぐに帰ってきなさい」という勧告。やはり、フツーで幸せで曖昧な青春の時というのは、儚いものなのだということを知らしめられた瞬間だった。
だけど、曲は「帰らない」と母親を突っぱねる。そして、中見は「俺に攫われて欲しい」と曲に告げる。「正しくないけれど、二人で始めた旅のゴールに、曲がいてくれないとイヤだ」という中見の言葉や、曲の「迷っちゃおっか」という言葉には、フツーになれない二人が欲しかった「フツー」の青春と同時に、二人だけの特別な青春を象徴しているように聞こえていた。
第13話 最古の星
そして、辿り着いた真脇遺跡。星の夜が訪れて、そこで中見が告げるのは、「好きです、ずっと、一生、曲が好きです」という言葉。旅の終着点で告げられたのは、そんな終わりのない愛の告白だった。
曲が返すのは、「生まれてから一番嬉しい私の顔、写真に残して欲しい」という言葉。そんな星の夜空の下で、夜に憂う二人の笑顔というのは、二人の出会いがくれたもの全てを映し出しているように見えていた。
眠れない二人が引かれ合って、互いの不安な夜を満たし合う。そうやって眠りつけた互いの穏やかな寝息と心音から生まれたのが、この恋だった。
そして、中見にとっては朝が来たら大切な人がいなくなってしまうという不安、曲にとっては自分の命が尽きてしまうんじゃないかという恐れ。そんな喪失と途切れの夜を、二人が見つけた一生の想いが、永遠に続く二人だけの時にしてくれるのだと思う。
Tags: