「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「Just Because!」─青春の終わりの続きの恋物語─ 感想と考察 6~9話
これは青春の終わりの続きの物語。そして、その青春とは、高校生活であり受験勉強であり、切ない恋のことである。
第6話「Restart」
それぞれが自分の気持ちと向き合おうとする時が来た。
とはいえ、そこには恐れも付き纏う。陽斗なんかはまさにそうで、なんとか瑛太との思いをはっきりさせるか否かの1打席勝負の末に決心を決めれた。
一方で、その相手となる葉月も、そんな陽斗の姿に突き動かされて、彼が好きだと言ってくれたトランペットの演奏を久しぶりに始めてみる。それは間違いなく、一つの向き合いの形を取っていた。そして、その果てに、葉月は「相馬くんにはもう一度、返事したいって思ってた」「きちんと考えてからもう一度、相馬くんの気持ちに答えたいって思ってて」とようやく自分の素直な感情をぶつけた。
そんな言葉に「俺、まだフラれてなかった!!」と大喜びする陽斗の胸中は、一度は終わったと思っていた自分の青春がまだ終わっていなかったことへの喜びに溢れているようで、青春のロスタイムへと突入していた。
そして、美緒も美緒で一つの答えを示していた。それは陽斗にきっかけの消しゴムを返すということ。陽斗や葉月と違って、美緒は別の道に進むという決意を決めていた。それに、葉月と陽斗からの一件の報告に、「森川さん、話してきたんだ」と屈託なく安堵を見せる様子は、もう既に過去を振り切ったという表情をしていた。
第7話「Snow day」
変な人に絡まれて怯えていた恵那を見つけてくれた、助けてくれたのが瑛太だった。
そんな彼女にとって、写真部というのは「私にはあそこしかない」「写真部は私にとっては、やっと見つけた場所なんだもん」と言わしめる程のもので、その存続には瑛太の写真がかかっていた。その瑛太も「廃部にさせられない…」という恵那の必死な声に押し切られて、自分の写真をコンクールに提出することを了承した。
それはまさに、瑛太自身が恵那にとっての居場所になって瞬間のようにも見えていたし、喜びのあまり瑛太に飛びつく恵那はそれを体現していた。
だけど、そんな二人の様子を、美緒は偶然に見かけてしまっていた…。ようやく陽斗への思いに区切りを付けて、中学の頃から損な性格の自分を損じゃなくしてくれた瑛太に気持ちを傾けつつあった矢先に。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、センター試験当日の朝を迎えた美緒。やっぱりその損な性格が祟ったのか、朝からの雪で電車は止まって、試験会場にも間に合いそうにない。美緒の目の前は不安と焦りでいっぱいいっぱいになっていた。
でも、そんなところに瑛太が駆けつけてくれた。「偶然通りかかった」と嘘ぶいて、切羽詰まった美緒のことを「大丈夫じゃん」と落ち着かせてくれる彼は、あの頃と変わらず損な性格の私を損じゃなくしてくれた。瑛太が最後に渡してくれた合格祈願のお守りも、彼の想いが詰まっているような温かさが感じられるように見えていた。
だから、恵那も美緒も一区切りの末に、瑛太のことを見ていた。藤沢駅改札口、「泉先輩のことなんだけど、デートに誘ってもいい?」という恵那と、「ダメ」と短く返す美緒は、青春のクライマックスに飛び込もうとしていた。
しかし、その裏で瑛太の青春もリスタートを切っていた。既に推薦で進学先を得ていた瑛太だけど、やっぱり美緒のことが諦められなくて、彼女の志望校の赤本を買ってしまう。そうやって、再び大学受験、そして淡い恋という苦しくて儚い道のりを歩もうとする瑛太は、間違いなく最後の最後に青春を真ん中に立ち戻ろうとしていた。
まさに青春のロスタイムもといアディショナルタイムに飛び込んでいた。
第8話「High Dynamic Range」
葉月の家を訪れた一行は、美緒のセンター試験を終えての束の間の一息を祝っていた。ようやくの一段落。とはいえ、そんな中で瑛太は新たに自分も美緒の第一志望の大学を一般受験するという決意を固めていた。
一方で、恵那は美緒への一応のお伺いは拒否されたものの、瑛太をデートに誘おうと四苦八苦する。そして、もんもんと悩んだ末に、後出しで「デート」だと言うことにして瑛太を呼び出すことにした。そんな恵那も瑛太や美緒と同じように、まだ素直に自分の思いを伝える勇気を持ってはいなかった。
そして、恵那からデートに呼び出された道中の瑛太は、よりにもよって美緒に出くわしてしまう。もちろん、彼女は瑛太が恵那とのデートに呼び出されたことを察していて、そこには気まずい雰囲気が流れる。さらには、あろうことか恵那もそこに合流してしまう…。
しかし、結局、その空気に耐えかねて逃げ出したのは美緒。そんな美緒のもんもんとした気持ちは、瑛太への嫉妬であり、怒りでもあるのだと思う。それでも、好きだからこそ、彼を切り離すこともできない彼女の内心を思うと、切なくて居た堪れなかった。
そして、恵那と瑛太の江の島デート。その中で、瑛太はいつもとは少し違う恵那の表情を見つける。そして、そんな美緒への思いを上書きしかねないような感情への反発なのか、帰り道で瑛太は「美緒に告白できないから、受験するんだ」と恵那に語る。だけど、そんな恵那への想いの迷いを打ち消すための言葉は、かえって恵那を焚き付けてしまった。そして、恵那から返ってきた反応は、「私もコンクールで賞を取ったら、先輩に告白する!」と大胆に言い切るものだった。
第9話「Answer」
思い切って髪を切った葉月に、彼女が今の進路を決めた理由を問う美緒。それに答える葉月は、「いつか家族の仕事を手伝う前に、大学に行ったり一人暮らしをしたり…、そういうことを経験したかったから。まだ大人になりたくないんだと思う」と語った。そんな答え、特に「まだ大人になりたくない」という葉月の言葉に思うのは、青春をまだ諦めたくないという気持ちであり、それはまさに「恋」のことを示しているようにも思えた。
そして、そんな葉月の返答を受けた美緒は、「自分よりもずっとちゃんとしてる。私はなんかよく分かんなくなっちゃって…」と返す。そこに現れているのは、やはり彼女もまた「恋」なのだと思うし、その「恋」の迷いがそのまま進路の迷いにも現れていたように思う。「青春に決着を付けられないまま、進路を進めていって、大人になることなんてできない」という思いが、美緒の中をぐるぐる巡っているようだった。
そんな風に迷う美緒に、不意に葉月は「もしかして夏目さん、相馬くんのこと…」と問いかける。そして、美緒は「好きだったよ。中学の時の片思いかな…」と答えた。そして、さらに「でも、初恋のままずっと私は止まってた。実らなかったし、実らせようとしてなかった。それで満足してた」と続け、最後には「だって、私ちゃんと好きな人いるから」と吹っ切れたように語った。それはまさしく美緒の決意表明、新たな門出だった。
そして、そのまま帰り路に向かった書店で、美緒が手に取ったのは、瑛太が推薦を受け取っている大学の参考書。それが美緒の答えだった。
だけど、その瑛太は瑛太で推薦合格を貰っているにも関わらず、美緒が第一志望にしていた大学を改めて受験しようとしている。そんな二人の導き出した答えはどうしようもなくすれ違って、間違っていて、どこまでも青春のほろ苦さを滲ませていた。だけど、そんな迷いこそが何よりも青春らしくも感じられるようでもあった。
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