「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「Just Because!」─青春の終わりに、僕らは諦められなかった─ 感想と考察 1~5話
第1話「On your marks!」
高校3年生も3学期目前の転校生。このまま穏やかに残りの僅かな時間の消化試合のように過ごすだけだったはずの日々。そこに、唐突に射し込んだ一つの特異点が泉瑛太だった。
4年ぶりに戻ってきた街に、4年ぶりに再開した陽斗。ホームランチャレンジで野球をしているうちに不思議に自然とまた打ち解けられる様子には、青春の普遍性みたいなものすら感じられるようだった。
そして、遂に放たれたホームラン。その快音が貫く冬空の景色は、残り短い高校生活に何かが起きることを予感しているようだった。
第2話「Question」
葉月に告白を挑もうという陽斗と、それを目の当たりにする美緒と瑛太。まさに複雑な恋愛関係の縮図とも言うことができる場面だった。
とはいえ、結局は陽斗が日和って、ただただみんなで水族館へ行くことに…というオチ。しかしそれでも、そんな陽斗を見つめる美緒の握りしめる掌は、瑛太の目には4年前と変わらずに彼を想う姿が克明に映っていた。そして、家に帰って、「なんか疲れた」と漏らす瑛太の言葉には、陽斗も美緒も自分までも含めて変わらないままの青春に囚われていることを思っているようだった。
江ノ島水族館。陽斗と葉月を横目に微妙に近いようで遠いような、遠いようで実は近いような距離感の美緒と瑛太。互いに本音を言うことができないということだけは共通していたけれど、4年ぶりの再開でも昔のように親しく振る舞おうとする美緒の姿と、昔のことを忘れたような態度の瑛太はまるで正反対だった。そんなちぐはぐな接触はどこかで思いが通じ合ってるようでいて通じ合ってないというものに見えていた。
しかも、想いが通っていないのはむしろ親しく振る舞う美緒から瑛太への想い。なんにも思ってないからこそ、悪気なくいたずらに親しげに話しかける美緒の姿が、瑛太にはちくりと刺すように感じていたのかもしれない。
でも、それは美緒が陽斗に向ける眼差しとも同じなのだ。陽斗の葉月への想いを優先させようとして、かえって美緒は自分の陽斗への本心を忘れたように振る舞っている。青春の終わり際の12月、彼らはままならない青春を最後に噛み締めているようだった。
第3話「Andante」
このエピソードは、簡潔に言うならば、青春の終わりにまつわる対比だった。
小宮恵那は青春を終わらせたくない。彼女は廃部の危機にある写真部を存続会社させるために、コンクールでの入賞が必要。そんな時に撮れたのが謎の転校生・瑛太の写真で、彼にコンクール出品の許可を得るべく奔走していた。
一方で、森川葉月は青春の最期を悟っていた。全国を目指して続けてきた吹奏楽も高校で終わりにして、大学では続ける気はないという。それに、いずれかは家の仕事を継ぐことが決まっていて、大学進学というのもただの通過点に過ぎない。だから、そんな彼女にとって、まさにこの高校3年生の冬は自由な青春の終わりであり、青春を看取る時なのだ。
そうやって、小宮恵那と森川葉月は、青春への飽くなさと諦観が入り交じる二人として見えていた。
そして、第三の青春。それは泉瑛太。「こっちに戻った来ても何もないと思ってた。3学期をただ卒業するだけのつもりだった」という彼は間違いなく、葉月のように青春を看取るだけのはずだった。だけど、そんな中で陽斗や美緒と再開した。このまま終わるはずだった青春がまた動き出してしまった、痛々しくて苦々しい青春が─。
だから、そこで瑛太は恵那のように青春を再び掴もうと手を伸ばすのか、それとも…。
といったところで、彼を待っていた青春というのは、橋渡しの隙間の青春だった。美緒と藤沢駅で会う約束も、結局は彼を探していた小宮恵那を紹介するためだった。さらに、犬が苦手な陽斗からは、葉月と近付くために、犬を飼っている恵那を紹介する羽目にまで陥ってしまっていた。詰まる所、瑛太の青春というのはまだふんふわと宙に浮いたままのように見えていた。
とはいえ、その裏では美緒も同じように陽斗から、犬克服のための連絡があった。そして、彼女は想い人を別の女のもとへ押し出すようなことになるにも関わらず、それを引き受けてしまった。結局は美緒も想いがふわふわと漂っていて、そういう意味では瑛太と美緒はどこか引かれ合う要素が揃っているのかもしれないと思えるようだった。
第4話「Full swing」
「初詣でもう一度、森川に告白するぞ!」と宣言する陽斗と、それを見て表情を曇らせる美緒という印象的なコントラストから迎える年の瀬。「上手くいくといいね、告白」と言う美緒の浮かべる笑みはどこまでも嘘で、この冬空のように寒々しかった。
一方で、恵那は美緒のことを瑛太に問い、「美緒のどこが好き?」と心の内を見透かした挑発めいた質問を投げかける。そんな瑛太を美緒のもとへと背中を押すような恵那は「早く告白しちゃいなよ」と言いながらも、どこか思わせぶりな態度にも見えていた。だから、もしかしたら彼女もまた…ということが頭を過ぎるし、恵那の言葉もまた本心とは裏腹なのかもしれないと勘繰らせられるようだった。
そして、いざ大晦日、そして初詣。陽斗と葉月を二人きりにするために、かえって自分たちも二人きりになった瑛太と美緒。美緒は「陽斗さ、ちゃんと告白できたかな」と茶化すけれど、それを瑛太は「言おうとしたのはすごいでしょ」とどこか怒っているかのように嗜める。それは本心を明かせない自分自身への当てつけなのか、はたまた美緒が本心じゃないことばかり言うことへの当てつけなのか…、恐らくどちらでもあるように思えた。
とはいえ、おみくじを引こうという美緒の提案を、「フツーにイヤだけど」と突っぱねる瑛太は、運勢という運命を明らかにして知ってしまうことを恐れているようで、結局は本心を晒すことができないままのように見えていた。
だから、その後の一幕はまさにその二つの感情の葛藤を表しているものに見えた。美緒が陽斗への思いに言い訳する姿を見て、瑛太は「全然良くないだろ、必死に言い訳してさ」と言うと、「泉には関係ないじゃん」と言われてしまって。そこで勢いあまって、瑛太は「俺だってずっと夏目のこと…」と口走ってしまう。それはまさに『言おうとしたのはすごいでしょ』を反映した、ちゃんと告白することを肯定する感情の表れだった。
しかし、「俺だってずっと夏目のこと…」の後に続く言葉は「知ってんだからさ…」と尻すぼみに終わってしまった。そして、それはおみくじに『フツーにイヤだけど』と言っていた結局自分の想いを明らかにすることを恐れる気持ちの表れだった。
そんな高校3年生の大晦日は『青春』の終わりを告げるものであり、続く高校3年生の元旦はそんな純粋で幼気な葛藤を抱え込んだまま沈黙に沈む『大人』の始まりを示唆するようだった。
第5話「Rolling stones」
そして、始まった終わりの3学期。
美緒を呼び出した葉月は、区切りを付けるかのように陽斗に告白されて、そしてフッたことを相談していた。そんな葉月の「ちゃんと考えて、返事しなきゃいけなかったんだな」という言葉は後悔であり、ちゃんと陽斗と向き合っていなかったことへの懺悔だった。
そして、美緒も「もう一度返事したいって陽斗に言った方がいいよ」とアドバイスをする、本当は自分も陽斗のことが好きなくせに。とはいえ、美緒も少しずつ思いの確信を掴み始めているようだった。だから、バスで瑛太と出くわした美緒は「相馬のこと、はっきりさせようと思ってる」と宣言したのだと思う。
一方、その陽斗も陽斗で思い悩んでいた。年明け一番に「これで全部終わったな…」と終わりの言葉を呟いたのは、まさに青春を全てが終わってしまった胸中を如実に表していた。
特に回りに進学組がいる中で、自分の学生生活は高校までの就職組。さらに、年末には失恋したことを思うと、もう青春の何もかもが一気に終わらされてしまったみたいで空っぽになってしまっていたように見えていた。野球に打ち込んだ青春の日々を象徴するグローブをゴミ箱に投げ捨ててしまった場面なんかは、まさにそんな陽斗の思いをそのまま表していた。
だけど、瑛太がそんな陽斗の心をグローブごと拾う。そして、瑛太の促しで陽斗は職場となる会社の草野球に参加して、大人でもこんな楽しい時間があるんだなと笑顔を取り戻していた。
確かに陽斗の青春は終わってしまった。だけど、こうして大人の世界に飛び込むこともできていた。それは他のみんなとはステージ一つ先へ行っているようにも見えていたし、そのコントラストとして青春の痛々しさに嵌まる美緒や瑛太の姿がよりいっそう際立つようだった。
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