「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「無職転生 2期」─ルディとシルフィを結び付けた恋心─ 感想と考察 第1クール
第0話「守護術師フィッツ」
降ってきたシルフィ。そして、わけもわからないままに告げられる故郷の消滅は、シルフィをたった一人何もないという孤独と頼れるものもない不安で覆っていた。
何よりも決定的だったのが、シルフィではなくフィッツとして名も姿も生まれ変わらなければならないことだったように思う。それは確かにアリエルによる配慮や庇護の結果ではあるが、その手から全てを失ってしまった今のシルフィにとっては、唯一縋ることのできる自分自身も失ってしまうことのように思えた。
でも、アリエルが自分を頼っても良いと言ってくれた。少なくともアリエル自身はフィッツを頼りにしているから、と。全てを失ってしまったシルフィにとって、その言葉は欠けてしまったものを埋めてくれるような安心感と自分自身の存在意義を与えてくれるものだったように思う。だから、鏡に映る白髪のフィッツになった自分を見て、シルフィが微笑むことができた姿は、その象徴として映った。
そして、さらにフィッツは一歩進む。アリエルを襲撃する暗殺者を返り討ちにしたことで、ここに居てもいいんだと、フィッツの中に確かな自分の存在意義を掴むことができた。アリエルの友だちとして彼女の力になりたいという決意の言葉は、まさにそんなフィッツの思いを表すようだった。そんな彼女の姿は、もういつまでも怯えてばかりのシルフィではなかった。それは、強く自信に満ちたフィッツという存在であり、その胸の内にルーデウスたちを探すという形でシルフィとしての根幹を携える新たな彼女となっていたように見えていた。
第1話「失意の魔術師」
失意のルーデウスは孤独と諦観に満ちた表情をひたすら浮かべるだけの人形のようだった。それは、いわば失ったものばかり数えて、これから何を求めようかなんてことは頭にないような心境。
そんな中で出会ったパーティー・カウンターアローの彼らとクエストに挑むことになって。そこで訪れたピンチの最中、まだ出会ったばかりの彼らが自分を見捨てず懸命に戦ってくれる姿を見て、ルーデウスが思い出したのは、「仲間」の存在なのだと思う。
その後訪れた街の酒場で、スザンヌが地元の冒険者にこれから世話になると酒を振る舞った場面が象徴するように、新しい街にも「仲間」はいるのだ。エリスたちと離別しても、決して孤独ではない。だからこそ、ルーデウスはこれまで仲間がくれた強さを思い出して、新たな仲間と共に旅を続ける決意を新たにすることができたのだと思う。
第2話 真夜中の森
消えないトラウマ、捨てられたという刻印がルーデウスの表情に焼き付いて拭えない。後悔や喪失感だけが、その中に詰まったようなルーデウスは、もう生きる目的や自分自身の心の拠り所を見失ってしまっているようだった。
そんな中で、窮地のサラを助けて。そして、「ありがとう」という簡単な言葉に、ルーデウスはどこか救われたような気持ちになれた。きっとそれは、「捨てられた」という存在の否定の烙印を克服できたことを示す、承認の言葉だったように思う。生きていてもいい理由を、ルーデウスは自分の中に見つけられて。
そして、だからこその「これからもよろしく」というこれからの未来へようやく進めるようになったのだと思う。
第3話「急接近」
心の奥底に染み付いた離別のトラウマから、ルーデウスは未だに勃ち直れず、もとい立ち直れずにいた。だから、「嫌われたくないんだよ」という叫びがそんな心をありありと表していたように思う。
突然にエリスが去ってしまったように、今のルーデウスにとってはどんな女性も近づけば近づく程にふといなくなってしまいそうに思えて、だから近づくことを心と体から拒否してしまう。
それは、弱さゆえの強がりとも言えるのだろう。傷つきたくないから、傷つけられる前に自ら跳ね除ける。そんなサラへの虚栄心が、もう戻らない決別を招いてしまった。
だけど、ゾルダートだけはそんなルーデウスの弱さを知ってもなお見捨ててくれなくて。一歩進んで二歩戻ってしまったルーデウスだけど、ゾルダートとの新たな旅は、また一歩前に踏み出そうとしていたように見えていた。
第4話「推薦状」
自信を取り戻し、次の旅路をいずこかと見据えるルーデウス。エリナリーゼからロキシーのこと、ゼニスが安否を聞いて、家族の集合を急くようだったけれど、一方でラノア魔法大学からの推薦状も届いて…。
さらに、ヒトガミからもここ数年の停滞を言われ、ルーデウスはラノアへ向かうことにした。大きな挫折に落ち込み、それでもさんざ真名出会いを経て、再び前を向き始めたルーデウスにとって、ラノア魔法大学入学というのは、気持ちの面でも力の面でもソッチの方でも、さらに上を向くきっかけになりそうな予感があった。
第5話「ラノア魔法大学」
ラノア魔法大学は一つの運命の収束点のようだった。エリスの弟子であるクリフや、ルーデウスの従兄弟にあたるルーク・ノトス・グレイラットとの対面や、フィギュア作りの弟子・ザノバ、そしてフィッツと名乗るシルフィとの再開。そこには、転移事件の前と後のルーデウスが一つに繋がるような感覚があって、それがまた新たなルーデウスの姿を描き出す予感を感じさせていた。
そして、特に印象的だったのは、ルーデウスとフィッツの対面。フィッツだけが一方的に、ルーデウスを認知している非対称さは、変わらずにルーデウスただ一人を待ち続けていたシルフィと、旅の中で多くの女性と出会い別れてきたルーデウスの変化の差異そのものだったように映っていた。フィッツ自身はそんなルーデウスの経験をまだ知らないけれど、それでもルーデウスが自分をシルフィだと気付いてくれないことに感じるもどかしさは、変わらずにいた僕の変わってしまったルーデウスへの想いを表しているようにも見えていた。
とはいえ、ルーデウスにとって、シルフィの存在は決して忘れてしまった過去のものではなく、むしろ消え褪せることのない原点であることに相違はないはず。だからこそ、ルーデウスはシルフィと約束したラノア魔法大学にやって来たのだと思う。ルーデウスの根底には、変わらずにシルフィがいるように映っていた。
そして、それと同じように、フィッツの根底にもルーデウスがいる。何も知らない土地に飛ばされて、元の名を奪われてフィッツと名乗なければいけない孤独の中でも、ルーデウスを想う心こそが、きっとシルフィをシルフィのままでいさせてくれたのだと思う。ルーデウスが僕を僕のままでいさせ続けてくれた、ED主題歌の詞にもそう歌われていたように。
第6話「死にたくない」
フィギュア作りのために、手先の器用で魔法を覚える素養のある人手探しとして、奴隷市場へ赴くルーデウスとフィッツとザノバの一行。そして、そこで紹介された商品は、ドワーフの幼女。何もかもを失って奴隷に身を落としたその子の瞳には、絶望の闇が満ちていた。そこに、ルーデウスはかつての自分の姿を重ね、シンパシーすら感じているようだった。
でも、だからこそ、ルーデウスは何にも希望を持てずに何も発さないその子を助けようとはしない。それは、誰よりもルーデウスこそが、一方的な救済は救いにはならないということを知っていたからだと思う。
だから、「死にたいか?」という、その子の希望を掴もうとする意思を、ルーデウスは問うたのだと思う。そして、そのドワーフの幼女の「死にたくない」という答えに、今度こそルーデウスは自分が差し伸べる手が、ジュリエットという新しい名を与えることが、彼女の救いになると確信を得たのだと思う。
第7話「獣族令嬢拉致監禁事件」
リニアとプルセナをとっちめて、理解らせるだけの簡単なお仕事。そこにルーデウスは、フィッツ先輩のお力をお借りして、という顛末。
そんなシルフィだけが一方的にルーデウスのことをルーデウスとして認識している一方通行の再会の中で、二人はルーデウスとフィッツという別の形で距離を縮めつつある。フィッツの目を覆うそれを外せば全て分かる距離なのに、ルーデウスもシルフィもその目の前の一線を超えられない。そんなもどかしさに心がくすぐられるようだった。
第9話「白い仮面」
再び対面したルーデウスとナナホシ。そして、明らかになるナナホシもまた、前世の世界からこの世界にやって来た者であるということと、それが5年前の転移事件の原因であろうということ。
そこには、決定的な印象として、似て非なる者たちという感覚が残るようだった。同じ世界からやって来た二人だけど、転移したナナホシと転生したルーデウス。それに、ナナホシは魔力もなく年を取りもせず、嫌うこの世界からもとの世界に帰りたいと願う。それは、まるでこの世界の異物のようであり、この世界に適合し一部となったルーデウスと正反対の写し鏡だった。
そして、そんな二人が知らない言葉で知らない話をしているのをただ傍から見つめることしかできないフィッツ。特に、同じ村で育ったはずルーデウスが、転生や転移について、この訳の分からない知らない女と同郷だと説明された時の戸惑いは、フィッツにとって忘れ難いショックとして刻まれたように見えていた。ただでさえ転移事件以来のルーデウスに、シルフとしてなかなか近付けないフィッツだったけれど、今回の一件でそもそもルーデウス自体が最初から知らない人だったような、そんな遠い感覚の中に放り込まれてしまった気さえしていた。
第10話「この気持ち」
ナナホシの魔法陣研究に付き合う時間が増える程に、ルーデウスとフィッツの距離は遠ざかる。そんな中の街中での一幕。久しぶりに出会したフィッツがなぜか口を利いてくれないことに、ルーデウスは動揺を隠せないようだった。
きっと、ルーデウスにとっては、見に覚えのないことだからこそ余計に不安を掻き立てられるもので、不安に胸の鼓動も早くなってしまったのかもしれない。だからこそ、吊り橋効果ではないが、そんな戸惑いの中にルーデウスは「フィッツ先輩に嫌われたくない」という思いを自覚したのかもしれない。
そして、そんな「嫌われたくない」をきっかけに、思い出したようにルーデウスはフィッツへの恋心に気づいていく。さらに、そんな境い目に実はフィッツが女子だと明らかになったことや、ルーデウスの不能が復活の兆しを見せたことは、まさにこれらの出来事が二人を男と女にした象徴のように映し出すものだった。
第11話「あなたへ」
ようやく本当の意味でルディと再会できたシルフィ。それは、単なる再会ではなくて、ルディがブエナ村を旅立って以来の再会、転移事件でもっと散り散りになってからの再会、自分がシルフィではなくフィッツとなってからの再会、幼い二人が大人になってからの再会と、二人の間にあった遠い遠い距離を一度に全部埋めてしまうような、そんな想いがとめどなく溢れる再会だったように思う。
第12話「伝えたい」
そして、ルディももう失いたくない、後悔したくないから。シルフィに素直な想いを伝える。
さらに、シルフィから告白されるのは、突然ルディがブエナ村から連れ去られてしまってから、彼女はずっと色んな意味でルディのもとへと近づきたくて、そのために強くなろうと進んできたというかこと。
それを聞かされたルディにしてみれば、そんなに自分のことを強く求めてくれるのかという愛に他ならなかったように思う。そして、そんなシルフィからの愛こそが、全てを失って挫けてしまったルディのアレに響いて、再び立ち直らせたのかもしれないように思えた。アレとはまさしく、そう、ルディの心だ。
そして、事に及んだ翌朝、エリスの無言で去ってしまった時とは違って、シルフィは「私はここにいるよ」と微笑んでくれる。その瞬間に、ルディはもう自分の手を離れない愛、自分の手から二度と離すことのない愛というものを確信したんだと思う。そして、それが結婚するという永遠の契りに映し出された一幕だったように見えていた。
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