「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」

「星屑テレパス」─この想いは、宙へと続く─ 感想と考察 7~12話
第7話「大胆リーダーシップ」
みんなと歩むリーダー
今度は部長会に挑むことになった海果だけれど、回りをリーダーたちに囲まれる中で、また自信なさげに陥ってしまっていた…。そんな中、「秋月さんなら焦ったりしないのに…」という彼女の心の呟きは、それでもやっぱり自分もリーダーになりたい!という健気な思いを汲み取ることができるようだった。
そして、そんな中で迫るロケット研究同好会の発表のターン。海果のメモノートに書き記されていた、「ロケット選手権優勝」のスローガンと、みんなからの「ファイト!!」の文字が海果に勇気をくれた。そして、そこに表れていたのは、海果なりのリーダー像だった。
どうしても引っ込み思案なとこがある海果にとって、みんなを引っ張るという典型的なリーダー像は合わない。だけど、そんな彼女だからかそ、みんなと歩幅を合わせて、一緒に進んでいくリーダー像を描くことができるのだと思う。そして、そんな自分なりのリーダーのやり方に納得感も得られたからこそ、詰まり詰まりの発表なってしまった部長会だったけど、終わってみれば明るい笑顔を携えて、みんなのもとに帰ってこれたのだと思う。
さらに、そんな海果だからこそ、モデルロケット選手権優勝に向けた決意表明として、「絶対みんなで叶えよう!!」と付け加えたように見えていた。
健気でひたむきなリーダー
そして、一段落のひととき。海果たちはイヤイヤな瞬を巻き込みながら、ケーキビュッフェ、プリクラに興じる。瞬はそんな空気に「一人でいいっ!」と反発するけれど、そんな心の内にあるのは他人を信頼できない性分。それこそが今まで瞬が一人ぼっちだった理由なようにも感じられるものだった。
だけど、海果はそんな瞬の事情も介さない。オロオロと言葉につっかえながらの不格好な言葉だけど、ひたむきに一生懸命に訴えかけようとする海果の言葉に思わず、瞬の心も動かされていた。そんな健気で素直に人のことを思うこともまた、海果だから描くことのできるリーダー像なのかもしれない。
リーダーは必ずしも一人で歩めなくたっていいんだ、なぜなら…
そして、そんなリーダーに導かれて、やる気を出した瞬はかえって勢い付きすぎてか、「全部自分にやらせろ!」となってしまう。「勝ちたいなら、全部任せろ」という瞬の言葉は、確かに合理的。だけど、それは海果の描いていたロケット作りとはどこか違う…と、リーダーとしての自分の手腕に不安を覚えてしまっていた。
だけど、そんな海果にユウが寄り添う。「一人じゃ難しいことでも、誰かと一緒なら叶えられる。私に教えてくれたのは海果だよ」「海果の思いが、海果の言葉が道の先を照らしてくれるから、私は迷わずにこの道を歩いていける」ユウからのそんな言葉に、海果は再び自信を取り戻せた。そして、そんな海果はまさしく一人じゃなくて、みんなと共に歩むリーダーの姿そのものだった。
第8話「出陣ウルトラハイパワードリィーム」
責任の刺々しさ
モデルロケット選手権に向けた訓練に挑むロケット同好会だけど、そこには課題もたくさん!!
そんな中、瞬は不甲斐ない海果たちに文句が尽きない。だけども、だからといって彼女は諦めてしまって、みんなを放り出すなんてこともしない。それは、自分がいなきゃ誰がみんなを宇宙へ連れて行くんだという責任感にも似た思いがあったのだと思う。でも、そんな責任感がかえって、瞬を周囲に対して刺々しくさせていたようでもあった。
だけど、遥乃はそんな瞬に対して、「ただ勝つだけじゃなくて、その過程で仲を深めることにも価値がある」と諭す。勝ちだけを目指してどこか切羽詰まっていた瞬に、それだけじゃないという道を示していた。
共に打ち上げるロケット、共に目指す夢
そして、それがあったからこそ、瞬が遥乃の作ったケーキからロケット制作のヒントを得られることに繋がったのだと思う。それに、それはまさに瞬、一人だけじゃなくて、みんなで共に作り上げる過程の大切さを知らしめられるようだった。
さらに、瞬に強く当たられてしまった海果が会長として強くいなきゃという責任感を滲ませたことに、瞬が何か感じるとこがあったというのも、遥乃との一連の「過程の大切さ」を説かれてこそのものだったように思う。そして、これを以て、ようやくロケット同好会はそれぞれの本気や責任の方向を一つに定めて、走り出せるようだった。
第9話「惑星グラビティ」
モデルロケット選手権、秋月さんのスピーチに打ち上げの振る舞いとそのカッコよさを前に、顔面蒼白な海果。それは、「自分にはあんな風にはできない…」という自信喪失の表れで、圧倒的な「あぁはなれない」という絶望だった。
そして、結局のところ、スピーチも打ち上げも自分じゃ何も覚えていないくらいに散々な結果。もはや海果に残ったのは、「こんなことなら、私はずっと一人でいればよかった…」という今までの積み重ねを全て無に帰すような後悔だけだった。それに、海果をここまで連れてきた、変えてきた「みんなとの出会い、繋がり」も輝きを失っていた。
だけど、後日、偶然に出会った秋月さんは海果たちの打ち上げを「ワクワクした!良かった!」と評してくれた。そして、それは「小ノ星さんも含めて、みんなのチームの力を感じたから」と。
海果はそれを「私はロケットを作りたいって言っただけです」と否定するけれど、秋月さんはそんな海果の動機や夢ごと肯定しながら、「同好会のみんなもキミの夢を信じたから、共感してくれたんだし、リーダーに押し上げてくれてんだよ」と認めてくれた。それは海果が見失っていた「居場所」を再確認させてくれる言葉だった。だから、「自分にできるコト、今ある居場所のコトを見ないフリしちゃいけない」と秋月さんは言ったのだと思う。
それに、秋月さんが「モデルロケットは本当にロケットを宇宙へ打ち上げる足がかりにもなるんだ」と熱弁したり、「だから、ボクはキミたちとまた戦えるのを楽しみにしてる!」と精一杯に訴えるどこかな必死な姿は、海果の目に映り続けてきたただただカッコよくてスマートなばかりの秋月さんとは違って、海果自身もそうだったようなちょっと不様だけど力強い信念を携えた姿のように見えるものだった。そして、そんな秋月さんだったからこそ、彼女の言葉も海果の心に届いたように見えていた。
第10話「泣き虫リスタート」
選手権での失敗以降、瞬は塞ぎ込んでしまっていた。だけど、海果もそんな挫折を同じように味わっていて…。でも、だから。そんな挫折を糧にして、今度は海果がみんなを引っ張る番だと決意を固めていた。
「この間の苦しみを踏みしめて、ダメな自分を受け止めないと前へ進めない」という言葉は、まさにそんな思いを表しているようであった。
そんな中で、「私はここにいるべきじゃない」と言う遥乃。彼女は勝ち負けを恐れていて、だからそこから目を背けて、ただそれをやるだけで価値があると信じてきていた。でも、瞬の勝ちに執着する姿を見て、中途半端な自分の不甲斐なさというのも遥乃は感じていた。
でも、海果はそんな遥乃を認めない。それが「敗れてない!!」という言葉に表れていた。そして、「確かに負けたけど、それでも飛ばしたロケットのことを褒めてもらったりして、大会に参加して良かったと思えた」「だから、諦める必要なんかない」という言葉に繋がる。
それは、負けてもいいという意味なんだと思う。勝てなくても負けてしまっても、そこから何かしら得られるものがある。そして、それと同じように、この挫折から実になるものだってあるということを海果は言っていたのだと思う。
そんな海果の言葉を受けて、遥乃も「変わらなくちゃ、このままじゃいられない」と思いの変化を見つけられた。そして、吹っ切れた遥乃は瞬のもとを訪れた。
そこで、語るのは「同じ目標を追う仲間と、同じ視界を見られるようになりたい」ということ。それは明確に遥乃の変化を描いていた。勝ち負けかは目を背けてしまったことを悔やむという挫折を経て、遥乃はもう何かを特別に追うことを恐れることを止めていた。
そして、そんな遥乃の変化は海果のおかげであり、今度は遥乃が同じように瞬を変えるという予感も描いていた。
第11話「再戦シーサイド」
ロケット同好会は彗を頼って、アドバイスをもらうことに。そして、その助言というのはロケットを飛ばすための技術の話もあるけれど、海果たちに何より刺さったのは、「失敗したら直す、分からないことは人に頼ればいい。そうやって一つずつ確かなものにしていこう」という言葉だったように思う。
瞬との間にできた深い溝という挫折に直面する海果たちにとって、彗の「ただで諦めるな」というアドバイスこそが彼女たちに必要なものだったように感じられていた。
そして、いざ瞬との勝負の時。だけど、結果はあっさりと圧勝。そんな結果は瞬がわざと負けたものだった。
でも、そんな瞬に対して、海果は決して怒ったりはせず、ただ「何も分かってなくてごめんね……」と声をかけていた。それは、今まで自分の居場所を見つけられなくて、孤独だったのは自分だけじゃなくて、瞬もそうだったんだという気付きを示していた。
しかし、だからこそ、ここで海果は「雷門さんの居場所になりたい」と言葉にした。それは彗に言われたように「瞬のことを諦めない」ということであり、瞬こそがこのロケット同好会という居場所を作ってくれたということへのお礼でもあった。
そして、そんな海果が自分のことをただの刺々しいやつだと諦めずに見つめてくれたことに対して、ようやく瞬も刺々しい奥にある本心の「一緒にがいたい」という素直な想いを打ち明けることができたのだと思う。
第12話「星屑テレパス」
熱に倒れた海果と、看病にやってきたユウたち3人。がんばりすぎで倒れてしまった海果だけれど、でもそのおかげで瞬も含めて4人が集まれたことは、またみんなが一つになれたことの証であり、海果が勇気を持って瞬とのロケット対戦に挑んで成し遂げた成果のようにも映っていた。
そして、また一つの形を取り戻したロケット同好会。海果が一人ぼっちだったところから始まったそれは、だんだんとその輪を広げていて、今やそれぞれがそれぞれの目標を持って、一つの形を成すところまで来ていた。それに、次の目標として来年のロケット選手権をまた目指せるという一年後のことまで見通せるというのも、海果一人じゃ到底考えられないようなことで。
だからこそ、色んな衝突や挫折を経て、辿り着いたこの場所の景色は何よりも輝いていて、そこに生まれたユウ、遥乃、瞬との絆もまた一段と特別なものとして見えていた。
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