「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「BIRDIE WING バディゴル」─運命が導く、イヴと葵の約束の意味─ 感想と考察
運命に振り回され続けるイヴと葵だけど、それでもお互いを求め合って、また同じグリーンに立つ。そこに懸ける二人の特別な想いには、時に哀しみ、時に高ぶりのままに感情を翻弄させられてしまった。
そして、そこには馬鹿げた超次元ゴルフも、トンチキなお家騒動やマフィアの抗争もなく、ただ一筋のラインを描く運命があったように思う。もちろん、「直撃の…ブルー・バレット!!!!!」と技名を叫びながらドライバーショットを放つイヴの姿や、マフィアが牛耳るアメリカの裏社会では賭けゴルフが物事を全てを決めるという世界観、頭抜けすぎた実力の結果としてプロ意識を欠いてお笑いと化したイヴや葵のキャラクター性も面白くて仕方ないし、『Birdie Wing』を語る上で外すことのできない魅力要素の一つであることに疑いはない。
それでも、『Golf Girls’ Story』という副題を冠するように、イヴと葵という二人の少女がゴルフに尽くす人生のドラマにこそ、『Birdie Wing』という物語を通した何よりの魅力を感じ取ることができた。そして、そこには「百合」の一言では片づけられない程の、生まれてからやがて命尽きる瞬間までひたすらにずっと互いの運命が絡み合っていくような人生を送る、二人のゴルフ少女の深くて固い血で結びついた絆を感じた。
第16話「大人のエゴに巻き込まれた若者たちの二代に渡る数奇な運命」
惹き合う運命は、互い違いに引き裂かれ…
天鷲一彦の腹違いの娘で異母姉妹、それが葵とイヴ。グリーン上の良き戦友として出会い惹かれ合った二人の運命が一つに収束した末に、二人は繋がるのではなく、決定的な決別をしてしまう。
それはゴルファーだからこそ。どちらが一彦の本当の娘で、あの天才の真なる後継者なのか、それは過去に遡る因縁でもあり、次の全米で女王を巡る未来の因縁でもある。事実、一彦の血縁上の父が一彦であるが、一彦から指導を受けた時間でいえば葵の方が長いということは、イヴと葵の二人に等しく一彦の後継者である資格はあるように感じる。
だから、そんな定まらない運命をイヴと葵という、せっかく良いダブルスタッグも組むことができた二人が、お互いを否定する結末が定められた争いをしなければならないことはただただ寂しいし、周囲の大人たちに振り回されなければ二人はそんな決別を辿ることもなかったのに…とやるせなさを覚えさせられた。
第23話「夢を叶えるために」
イヴと葵の運命の到達点
そして、それぞれのグリーンの上で戦い続けた果てに、病に倒れた葵とボロボロの身体のイヴ。再戦を誓った二人が共にゴルフを続けることが難しいという状況に、ただただ心が空っぽになったような気持ちに陥ってしまった…。特に、せっかくプロになれた葵が、もうゴルフができないという現実の前に挫けてしまいそうな姿と、彼女の人生そのものでもあるゴルフが途切れてしまいそうな悔しさには、堪えきれない痛切さが胸を刺すようだった。
でも、新庄さんによって、全英女子オープンでのイヴとの対戦の約束が交わされて、「イヴとまたゴルフがしたい」と葵の心に火を灯された瞬間。二人の約束がイヴと葵の身体と心を最後のところで繋ぎ止めているということに、耽美的な脆さと儚さを感じる一方で、その裏返しのことといて二人の想いと絆の力強さをより深く感じさせられた。そして、その彼女たちを繋ぐ想いが二人を全英の地に導いたという展開を前に、イヴと葵のこれまでの運命のほつれも全てここに至るために必要なチェックポイントであり、最初から最後まで二人は別れることなく一つに繋がっていたんだと気付かされたようだった。
第24話「約束」
ただそれだけの約束すら、運命は許してくれない
そして、最高峰の全英の舞台、ようやく二人で一緒にグリーンの上で戦える、──そう思っていたのに…。
限界を切り詰めた葵が再び倒れてしまって、また二人の願いは届かない。どうしようもなくすれ違い続ける運命が、イヴと葵の「ただ一緒にゴルフをしたい」というちっぽけな夢さえ叶えることを許さず裏切り続ける光景の哀しさに、涙で胸の中身が浸されていた。
第25話「蘇る約束」
二人のゴルフ
そして、最後に簡単な一打さえ打てれば、易々とボールをカップに沈められる。そして、全英の最終日にトップスコアで臨むことができるという場面で倒れてしまった葵……。だけど、いざ全英の最終日の朝、彼女はイヴのキャディーとしてコースに現れた。そして、イヴはイヴで、葵の輝ける翼の「シャイニングウィング」のドライバーを持って現れた。
そんな形で、全英を三連覇中の女王・ユーハに打ち勝つために、イヴと葵は二人でコンビを組んだプレイで決着のコースに臨んだ。そして、そんな意外すぎるイヴと葵のコンビは、約束本来の意味とは少し違うけれど、それでも「二人でゴルフをする」という約束を果たそうというものだったように見えていた。このイヴと葵の、二人の約束を何が何でも叶えてやるという諦めの悪さ。それは、二人が互いに互いのために立ち続けようと惹き合わせる特別な絆、その貴さを感じて仕方なかった。
そして、何よりも葵の「シャイニングウィング」のドライバーで、イヴが「レインボーバレット」のショットを打つ姿。それは、リタイアしてしまった葵の翼を、イヴが虹で再び輝かせているように見えて、それは「まだ葵は墜ちていない、まだ戦い続けてる」と言いたげなように映し出されていた。そして、それもまた二人が「約束」に想いを懸け、執着する象徴だったように思う。
だからこそ、その後のイヴとユーハのやり取りでの、「私は葵のスコアと戦い続けてる」というイヴの一言があったのだと思う。葵がキャディーとなってまでイヴと共にゴルフをする提案をしたのと同じように、イヴもずっと葵だけを見てゴルフをしている。常にお互いのことで頭がいっぱいなイヴと葵のライバル関係は、どこまでも強くて美しかった。
運命のカップイン
また、葵のクラブでイヴが打った「シャイニング・レインボーバースト」は、天鷲一彦のショットのようにも、亜室麗矢のショットのようにも見えていた。
それは、まさに血を分けた異母姉妹の二人の交錯した運命が、一つに結び付いた瞬間だったように思う。「二人で一緒にゴルフをする」という約束を交わしてから、数多の運命のイタズラに邪魔をされてきたイヴと葵だったけれど、この全英最終日の最終ホールの舞台、この瞬間にようやく全ての運命が収束したことを示していたように思う。
そして、そこに湧き上がる「ようやく、ようやく届いたんだね…」という思いで、今は哀しみの涙ではなく、喜びと植福の涙で胸を満たされていた。
新たな約束
結局、全英は総合スコアでユーハにイヴは敗れ、葵の取るはずだったスコアとイヴのスコアも引き分けに終わってしまった。
でも、だからこそ、「次こそはちゃんと一緒にゴルフをやって、イヴ/葵に勝つ!」という約束が交わされる。そうやって、4年後また全英の舞台に二人が立って、今度こそ決着をつけようというエピローグは、まさにこれまでの物語の全てが詰まっていたように思う。
ずっと二人で「約束」を追い続け、幾度となく困難が立ちはだかるけれど、「待ってる相手がいるから」という想いに突き動かされ、乗り越える。そうやって、この世界でたった一人の運命の相手のために、もがき続けて高みへ昇っていく。最後の場面の一打は、そんなイヴの葵の運命のラインをありありと感じさせるラストショットとして映った。
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