「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「アークナイツ 2期 冬隠帰路」─正義と正義の殺し合い、貫くのは絶対的な正義─ 感想と考察 14~16話
第14話「征兆 Blooming」
グレースロートが問うロドスの正義
ファウストの死に寄せられるレユニオンたちの弔いに、グレースロートが思うのは「ロドスは何のために戦っているの?」という疑問。「感染者のために戦っているはずなのに、戦っているのも死んでいくのも感染者ばかり」という彼女の言葉は決して的外れでもないように思う。
しかし、そんなグレースロートの問いに、ブレイズは「今の君にはわかりっ子ないよ」と嗜めるようでいて、アーミヤも「今度ちゃんとお話します」と穏やかながらも『それは違う』と暗に正すようだった。感染者でもある二人の反応というのは、つまり『そんな単純な構図ではない』ということなのだと思う。
もちろん、表面を見た時にグレースロートのロドスの感染者のために活動する理念とその感染者たちが倒れていく実態の乖離に疑念を呈するのは至極最もだと思う。だけど、そんな現実を導くまでには様々な正義にまつわる葛藤があることも想像に難くなく、アーミヤとブレイズもそんな正義の形は複雑であるということを言いたかったのだと思う。
ナインの正義
そんな複雑な正義を象徴する一つがナインでもあった。近衛局に所属する彼女は隊長であるチェンに唐突の別れを告げていた。「ここはもう私の居場所ではない、私は感染者を連れてここを出る」と言い残してレユニオンに下ったナインの中には、彼女なりの正義に関する葛藤があったのだと思う。
そして、「ロンメンを美化しすぎていたようだ」という言葉に浮かび上がる感染者をゴミくず扱いするロンメン政府のことを思うと、近衛局を離れる彼女の正義というのもどこかで共感できなくはないように感じられる。
ケルンが導くリュドミラの正義
さらに、もう一つ。ケルンvsリュドミラの戦闘シーンというのも印象的だった。ケルンはリュドミラの復讐の意味を問うて、咎めていた。「君たちの憎しみは他人の手の上で転がされているにすぎない」「ここを離れて自分の道を探し出せ、この大地を変えられる真の道を」とリュドミラを諭すかのような言葉は、『お前なりの本物の正義を貫け』というように聞こえていた。
そして、それは正義の形が人それぞれに様々ある中で、他人の正義にフリーライドして自分の信条をうやむやにすることなかれ、というものなんだと思う。人それぞれの正義があるからこそ、人に流れされずに自分なりの正義を見出す必要もあるのだと思わされるケルンの問いかけに感じた。
グレースロートとブレイズの正義
グレースロートとレユニオン兵たちとの戦闘。グレースロートは幼い感染者の子どもを身を挺して守ろうとした末に倒れてしまい、そんなところにブレイズやアーミヤたちが駆け付けた。
気を失ってしまったグレースロートの前で、アーミヤが推察するのは彼女の抱える正義。「グレースロートさんはきっと非感染者と感染者には大きな違いはないと考えているのだと思います」という推測には、グレースロートの自分は非感染者であっても迫害されてきた感染者に寄り添おうとする純粋な優しさを思わせるものがあった。
そして、当初は感染者に対して無理解に見えていたグレースロートを糾弾していたブレイズも同じなんだと思う。ブレイズも感染者を思う純粋な優しさがあるからこそ、そんな風にグレースロートを誤解とはいえ突っぱねるようであったと思うし、そんなグレースロートの内実を知ってからはちゃんも彼女を見直すようになったのだと思う。
第15話「相識 Sacrifice」
分かり合いと書いて、すなわち「和解」
フロストノヴァの捨て身の攻撃と、それに巻き込まれるドクター、そして二人の落盤。共に指揮官を失う中で、以外にもレユニオンは休戦を求めてきた。そして、とあるレユニオン兵が語りかける「殺し合いより、仲間を救出する方が先だろ」という言葉に込められた、冷酷だと思っていたレユニオン兵もちゃんと”人である”という温かみに、ロドスの面々も驚く。
この一幕が示すのは、今まで示されてきた「本当の正義とは何なのか、どこにあるのか」というまた一つの答えなように思えた。そして、それは「正義はどこにだってある」ということ。
さらに、落盤したフロストノヴァとドクターもまた貸し借りなしで、共に殺さないと約束をする。凍傷を解すようにと強烈にスパイシーなキャンディをくれるあたり、物理的にも纏う雰囲気としても冷たく凍てついたフロストノヴァだが、そんな彼女にさえもそういった温かみがあった。
変わる正義と悪
そして、彼女が語るレユニオンの変質。当初の理念から徐々に外れてしまった現状はフロストノヴァさえも望むところではなく、だからこそ本来は敵であるロドスのドクターにも唯一の希望を求めているようで、敵ながら僅かに信頼すら寄せていた。だから、この戦いを上手く決着付けることさえできれば、今は敵である双方ともに心から和解して、肩を組み合える未来だって望めるような希望の一欠片を見出すことができるようだった。
しかし、それはあくまでも希望であり、現実は希望を押し潰す。せっかくスノーデビル小隊とロドスたちが和解の兆しを見せたというのに、それと入れ違いとなる形で、チェンたち近衛局と、リンの率いる黒蓑はレユニオンたちを追い詰める。アーミヤも直接チェンに作戦の中止を訴えるものの、返答は「中止できない」と。
もちろん、チェンだって平和を望んでいるし、アーミヤの言うことに全く理解を示していないわけでもないと思う。「私だって争いたくはない…」というその言葉は、確かにチェンの本心を証明していたた。だけど、近衛局という立場、特にその隊長という立ち位置が、希望の火を吹き消すような運命の鳥かごに、アーミヤたちも巻き込みながらチェンたちを閉じ込める。
全ての敵も味方も同じ平和を望んでいる。だけど、この運命だけが、争いのない世界を望んでいないのだ。
第16話「氷釈 Lullabye」
正義の体現者
フロストノヴァはレユニオンの兵士たちを置いて、一人残る。それはドクターたちとの再会の約束のため。
そして、会敵したフロストノヴァとロドス一行。戦いの中で、フロストノヴァはブレイズに「なぜ戦うのか」と問うけれど、それは自分自身への問いでもあり、また仲間を守れなかった自分への憂いのようでもあった。
そして、それに対してアーミヤは、「ロドスは誰か一人のために戦っているのではなく、みなそれぞれが自分の信念のもとに戦っています。誰かが感染者たちを率いる必要などありません」と代わって答える。つまり、それはそれぞれの正義のあり方をそれぞれ肯定するということ。
さらに、続く「人々を救うためならば、私は何者にだってなります」という言葉も含めると、それはアーミヤが絶対的な正義の守護者であるということを浮かび上がらせる。そして、そんなアーミヤだからこそ、フロストノヴァも「私を破ることができたのなら、私もロドスの一員となっえともに戦うと誓おう」と応えたのだと思う。
フロストノヴァが戦う理由
そんな戦いの中でのやりとりを見ていると、フロストノヴァがここで戦う理由が二つ見えてくる。
まず一つは、アーミヤが肯定してくれたように、フロストノヴァも自身の正義を貫こうとしていたから。つまり、ある意味で意地の張り合いのようなものという理由
そして、もう一つは、そんなありったけの正義を互いにぶつけ合うことで、「タルラを討って、彼女を救ってくれ…」という自身の最期の願いをアーミヤたちが果たせるだけの力を持っているのかどうかを試すためということ。自分が死にゆくことがはっきりと自覚できる中で、””これから共に歩む””仲間として、ロドスたちが自らの思いを継ぐに足る者かどうかを図る場所として、この最期の戦いがあったように思う。
アーミヤたちに送る惜別
だから、この戦いはフロストノヴァからアーミヤやドクターたちに送る惜別でもあったのだと思う。思いを託す儀式、それがこの戦いの意味だった。
そして、アーミヤたちもそんなフロストノヴァの意志を継ぐ。それは彼女たちがこの大地に生きるあらゆる人を代表する正義だから。
Tags: