「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「アークナイツ 1期 黎明前奏」─それでも私は理想を語る─ 感想と考察
この物語は「理想を語ることは簡単でも現実にすることは果てしなく難しい。だけどそれを知ってなお、まだ理想を語る者は臆病なんかじゃない。現実という暗闇を希望の光で照らしていく者には確かな勇気を持っている」と、そんなことを語っているのだと私は思う。
重く暗い世界で生きる少女たち
重く残酷な世界に立ち向かわなければならないアーミヤたちが抱える覚悟、それは彼女たちの心身で支えるにはあまりにも重すぎるように思える、だけど、彼女たちは決して辛い表情を表に出すことはない…。その強さ故の苦しみに思いを馳せると涙が出てきてしまう。そんな過酷な世界で希望を追い求める道を開きし者たち。
そんなアーミヤたちはミーシャという女の子を保護することになる。彼女は感染者として追われる身でアーミヤたちの助けの手もなかなか信じられない。あまりに悲痛に怯えるその声に彼女がどんな辛い過去を見てきたのかと想像することは難くない。
アーミヤ率いる殺さずの理想の追求するロドスは、抵抗者への実力行使を厭わない近衛局と共同戦線を組んでレユニオンに対抗することを取り決める。しかし、そんな矢先にミーシャがレユニオンに攫われてしまう。
裏切りの理想
あまりに悲痛な展開にミーシャの気持ちを思うと涙が滲んできてしまった。
ミーシャはレユニオンの下で弟アレックス、今の名をスカルシュレッダーと再開する。そして、彼から虐げられてきた感染者の犠牲に報いようとするレユニオンの正義を説かれるも、レユニオンとは違って殺さずのロドスを捨てきれないと言い淀む。それでも己の道を貫かんとするアレックスをせめて生きて帰ってきて…と送り出す。
しかし、戦場の切羽詰まった状況でどこか事故的といえども、よりによってアーミヤがそのスカルシュレッダーの命を奪ってしまう……。彼らは殺さないからと信頼していたロドスに最愛の彼を奪われたミーシャ。もう彼女には何も残っていない。全てを裏切られ、奪われたという現実しかその手には残っていない。
そして、殺さずの誓いを立てた自らの手で守るべき感染者を殺めてしまったアーミヤ。彼女は己の信念の前でどこまで自らを信じられるのだろうか…。まるで理想を掲げてきた彼らの信念がこの残酷な現実の前に挫かれてしまったように映った。もしかしたらロドスがこの残酷な世界に対して勇気を持って掲げてきた理想の敗北や限界なのかもしれない。どんな時だって笑顔の表情を作ったままで苦しさや辛さを誤魔化し続けることはできない。ふっと綻びが生まれた時にも、もしかしたら全てが決壊してしまうのかもしれない。
正しい道、正義とは…
「ねぇ、アーミヤどうして殺したの?」「彼は私の弟だったの」「ロドスだってレユニオンの人たちを、感染者を傷つけて殺してる」「見て見ぬふりをしてきた、感染者の哀しみも痛みも」「この子を奪われてやっと気づいた心の痛み」「私、あなたみたいに強くない…ごめんね」
ミーシャから投げかけられたその言葉を聞いたアーミヤは自分の道に迷いを感じていた。自分の信じてきた道は、全てを人を殺さず救おうとする理想は果たして正しかったのだろうか、と。追い打ちをかけるのが、それをそうだと言うように戦場ではアーミヤたちと共闘する近衛局。彼らは殺さないロドスとは違って抵抗者を次々と切り伏せていく。
そして、再び姿を現した死んだはずのスカルシュレッダー、その正体は…ミーシャ。銃口を向けるミーシャに反撃できるわけでもなく、かといって彼女の心を変えることもできない…。ずっと救おうとしてきた相手を前にアーミヤはまた迷う。
その刹那、近衛局はミーシャにトドメを刺す。
誰も殺さない、だけど何も変えられない。そうやって逡巡している間に横槍の刺し合いで命は奪われ続けていく。そんな優しすぎる理想に自分の道を見失いかけるアーミヤ。近衛局のチェンには「自分の道を往け」と諭されるも、全ての人の力になれると信じていたが結局は何もできなかった有様を前にアーミヤは「私の道って何…」と膝をつくことしかできない。こんな理想に誰が付いてきてくれるのか…。
現実を知ってなお理想を語る者の強さ
でも、マスターは言ってくれる。「アーミヤがみんなより早く道を歩いて、暗闇を照らしてくれる」と。アーミヤは決して何もできない臆病者ではない、理想を切り開く勇気ある先駆者なのだと。
荒廃した大地、血塗られた戦場、憎しみと哀しみに駆られた人々。そんな世界に射し込む希望の光は再び輝きを取り戻した。
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