「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「青ブタ おでかけシスター」─かえでの本当の願い、なりたかった自分─ 感想と考察
「かえで」になりたい花楓
進路選択、花楓が希望したのはお兄ちゃんと同じ高校。その根底にあったのは、みんなと同じが良いという思い。それともう一つ、「かえで」の残した願いを叶えたいという思いだった。
はっきりと言葉にはしないものの、「舞先輩、舞先輩」と言ってばかりの咲太に不機嫌な嫉妬心を覗かせたり、バイトばかりで帰りの遅い咲太に寂しさや不安感を募らせたりする花楓が表していたのは、妹以上に妹らしい妹、かつてのかえでの影だったようにも映った。まだ不安定な状態であることに変わりはないけれど、やると決めた花楓の受験勉強の頑張りは凄まじくて、その一方で覗かせる兄に甘えずにはいられないような姿。心配になるくらいに頑張りすぎて、その反動で兄に甘える花楓には、冷静で落ち着いたところのある今の花楓らしくない印象を感じた。
きっと、それは自分の代わりにすごく頑張っていて、そこにみんなも優しさを注いでくれた「かえで」のようにならなきゃという花楓の心の中で渦巻く葛藤が生んだものだったのかもしれない。かえでのように望まれる妹・花楓になるために、ありのままの花楓を、頑張り屋さんで少し甘えん坊な咲太の妹・花楓という役で覆ってしまっていたように見えた。
花楓は「かえで」になれない
だから、「私も頑張るから」と決意した峰ヶ原高校の受験本番で、自分の想いに追いついてこない心と体がみんなとかえでの期待に応えられなかったことに、自分と比べた自分の否定の気持ちがこんこんと湧いて、花楓の心を満たしていた。そして、ベッドに潜り込んで、自分はダメなんだと、もう一人の妹の方が良かったんでしょ…と。かえでと「かえで」になれない自分を切り離して、兄を突き放す。「かえで」になれなければ何者でもない、居場所を失ってしまう自分を再び外界から閉ざそうとしてしまった。
咲太の二人の妹
でも、咲太にとっては、かえでも花楓も大切で大好きな妹に変わりはない。だから、妹に自分自身を否定してほしくないし、花楓には花楓が望むように生きてほしい。ようやく帰ってきた花楓なんだから、「かえで」じゃなくて良い、花楓には花楓らしくしていてほしいという兄の願いがあった。
そして、スイートバレットの卯月から通信制高校の話を聞く中で、卯月が語る「自分の幸せは自分自身で決めるもの」という言葉は、花楓の中で兄の言葉を確かにするものだった。それに、卯月の母の「定時制や通信制を勧めたのは、親として心配だったから」という一言は花楓の心変わりにとって大きなものだったように思う。以前の花楓には、通信制の高校を勧めは「かえで」になれない自分への否定のように刺さるものだったけれど、きっとその一言を聞いたことで、兄の妹・花楓を想う真意が伝わったように思う。
かえでがいたから、花楓がいる そして、未来の花楓になっていく
だから、かえでが残してくれたものを前に、花楓も同じ様にならなくても良い。かえでがあって、花楓はまた新しい梓川花楓になっていけば良いんだと、花楓は自分自身への確信を持てた。かえでがくれたものをなぞるのではなくて、その先を描いていったところに花楓の向かう場所がある。
そして、結局、花楓が選んだ進路は、合格できた峰ヶ原高校じゃなくて青星高校だった。かえでが行きたいとの書き残した場所とは違うけれど、それはきっと「お兄ちゃんと同じ学校へ行きたい」という願いにかえでが込めたものとは変わらないものだったと思う。あの頃のかえでにとっては、峰ヶ原高校に入学することが自分の成長のゴールだっただけで、今の花楓にとっても同じ様にそれだけがゴールというわけではない。かえでが一人で自分の巣を飛び出した先に峰ヶ原高校があったように、花楓が自らの手で道を選んだ先に青星高校があった。そういう意味で、花楓の選択はかえでが残した「すこし大人になりたい」という願いを叶えられたように映った。
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