「物語の読解、演出の解体、世界観の抽象化」
「ヴァイエヴァ外伝」─幸せを届ける手紙─ 感想と考察
幸せを届ける手紙
エイミーはある捨て子を拾いテイラーと名付け、自分の貧しく惨めな生活への当てつけにと彼女を幸せにすることを誓ったが自分も所詮子供なエイミーには幸せの実現は不可能のように思えた。しかし、ある日エイミーの父親を名乗る男が現れてテイラーの保護と引き換えにエイミーを引き取り来て、エイミーにその名を捨てさせてイザベラと名乗らせた。それはテイラーとの離別を意味したけれど、エイミーはそれがテイラーにできる自分の精一杯だと受け入れて、心を閉ざした。それから数年後、ヴァイオレットに出会ってからもイザベラは当初は心を内に閉ざしていたが、彼女の心からの思いやりに徐々に他者に自分を開いていった。
イザベラはテイラーに何もしてあげられなかったと言ったけど、ヴァイオレットはそれを否定した。イザベラがヴァイオレットの初めての友達になってそうしてあげたように、エイミーであった頃のイザベラは物質的には貧しくても楽しさやあたたかさに満ちた日々をテイラーに与えてあげることができていたと思う。
さらに、イザベラの距離を置く同級生の中でも中心的な存在であるランカスターがイザベラに家柄など関係なしにあなたの友達になりたいと告げてくれたこともイザベラの物質的な豊かさにこそ幸せがあると考えていた価値を思い直すきっかけになったと思う。
また、学校の舞踏会の後のこの場面までイザベラを導いてきてくれたのも他の誰でもなくヴァイオレットであった。ヴァイオレットによってイザベラのあたたかさを向けられずに孤独であった心は溶かされ、イザベラは本当の幸せとは形を持たない想いにあることに気づけた。
とは言っても、エイミーとテイラーは離れ離れになってしまったし、テイラーは幼さ故にエイミーのことをあまり覚えていなかった。
それでも、例え具体的な思い出を共有できないとしても、抽象化された記憶や想いが永遠の絆としてエイミーの名付けたテイラーという名前とテイラーとの日々に生きたエイミーという2人の2人だけの名前に刻み込まれているのだと思う。
また、孤児と貴族では間を隔つ大きな壁があるけれど、ヴァイオレットがイザベラとの別れ際に言い残したように客と郵便配達員としてまた会うことができる。間接的な想いの伝達だけじゃなくて直接2人を結びつけることだって手紙にはできる。
同じ空の下にいるから何が2人を隔ててもいつの日かまた2人は出会える。だから、テイラーからの手紙を読んだイザベラもといエイミーはテイラーの名を空に叫ぶ。テイラーもまたエイミーを想って空を見上げるのだと思う。
そして、この物語の中で特に印象的だったシーンに、ヴァイオレットの髪を編む様子を見たテイラーが自分も同じように編もうとするも上手く行かずヴァイオレットに編んでもらう場面がある。この場面でヴァイオレットはテイラーに髪は2本だと解けてしまうから解けてしまわないように3本で交差して編むのだと言う。エイミーとテイラーの2人では解けてしまう繋がりをヴァイオレットが3人目として2人を繋ぎ直す、まさにこの物語を象徴する描写であったと思う。
また、3年後のC.H郵便社の場面で以前は寿退社が花道であったが、これからの時代は各々の花道を行く時代だという会話があったりと流れゆく時代の中で変わりゆく価値観の変遷を感じさせられた。
一方で、同じく3年後の場面でベネディクトが戦争から数年を経て世の中の様子は大きく変わって発展を遂げてもだからといって郵便配達は変わるわけではないと仕事のつまらなさを嘆く場面があったが、変わりゆく時代の中でも人の想いを手紙が届け続けることや本当の幸せとは何なのかというような変わらないよさの存在を示していたようにも思えた。
新しく見つけたり、あるいは変わらずにそこにずっとあったりする大切なものについてをこの90分に感じた。
そんなわけでヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形-を再上映していたので見たけれど、TVシリーズは6話くらいまでしか見てなくて内容もほとんど記憶にないのでシリーズ初見に近い状態で視聴したがこの物語だけで(本編の後の展開っぽい描写はあったけれど)とりあえずは完結していて、なおかつ内容も90分とは思えないほどの内容の詰まったものだったし、登場人物たちの悲しみであったりエイミーとテイラーの互いの互いへの想いや彼女らに込み上げる思いにいっぱい泣いた。
また、この作品が件の事件後の最初に発表された作品ということはもちろん知っていたので、この作品で描かれていたことのように今は亡き人たちの決して消えることない想いがこの作品の裏側に存在し詰め込められているのだと、そしてアニメーションを通してこんなにも心を揺さぶられるという幸せを届けてもらった。最後に流れてくるエンドロールを見てそんなことを思ったりもした。
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